生物学的強者と弱者の登校デート(仮)

「何であんたがここにいるのよ?!」


 彼女から溢れ出る不満や殺気のようなものに飲み込まれそうになるが、一応ぼくも彼女の先輩という立ち位置である。ここで下に着いては行けない。

頑張って反論するしかない。


「それはこっちのセリフだよ!ぼくはいつもの電車に乗っただけだ!明らかに君がいつもと違う電車になってるんだろう!」


 いえた!我ながらすごいと思う。昨日散々バカにされ命令された相手に次の日にここまで言えるとは!


「ご主人様に向かってその口の聞き方は何?奴隷のくせして生意気ね!」


 最初はある程度言い返せたがここらでもう精神的に限界が来ている。


「いつぼくがお前の奴隷になるっていったんだ!.......ですか?」


 まずい。つい圧力と精神的苦痛に負けてつい敬語を使ってしまった。

 こんなことを彼女が聞き流すはずがない!

二人の間に数秒の沈黙が流れる。そして、

彼女はニマァと笑い、


「上の立場の私が決めることなのよ!奴隷にするもしないもわたしの勝手なのよ!わかった?」

とドヤ顔で見下してきた。

 くぅぅぅぅ!

 負けたような気がしてムカつく〜〜!

 ぼくと彼女はあまり背の違いはないが、本当にめっちゃ見下されてる感じがする!

これって名誉毀損とかで訴えれるんじゃないの?ってレベルで先輩であるメンツが潰されている。

 ぼくがイライラしていると、次の駅に着いたらしく大勢の人が乗り込んできた。ぼくと彼女はあれよあれよと人の流れに流されて落ち着いた時、彼女がぼくの背後から抱きつくような形になっていた。

 ぐぅ!朝からいきなり後輩に見下される謎のイベントだけじゃなく、電車でのくっつきイベントまで入れてくるとは神様もひどいものだよ!まったく!

とか考えながら、ぼくはあることに気づく。

 ん?背中にあたってるこの柔らかいものって  もしや?そう!日野さんの胸である!やばいやばい!

 そこそこある日野さんの胸が背中にあたり、もうほとんどそっちにしか意識がいかなくなっている。

ぼくは咄嗟に離れようとするが電車の中は満員で迂闊には動け無さそうだった。

 仕方なく後ろを向き彼女が大丈夫か確認しようと顔だけ後ろを巻こうとすると、瞬時に目を塞がれる。


「こっち見んな!この奴隷!これは命令よ!」


 おおう.....いつにも増して圧力がちげーな。目隠しされててもわかるわ。本能的に。

 そう言われては引き下がるしかない。ぼくは大人しく前を向き直した。しかし、

 気になる〜〜!どんな顔してんだろ?ってか、これはさっきバカにされたリベンジができるのではないか?そう気づいたぼくは彼女にバレないよう見えるギリギリのところまで首を回す。するとそこには、頭から湯気が出そうなほど顔を真っ赤にして恥ずかしがっている彼女の顔が見えた。


「驚いた。こんな顔もできるんだな。」


やべっ!つい声に出たっ!って思った時にはすでに遅し、誤魔化そうとした時にはすでに、見られたことに気づいた彼女によって、容赦なくぼくの足は彼女の靴の硬い踵で踏みつけられていた。


「いっつ!!」


 すぐに大声で叫んでしまいそうになったが、電車の中なのでどうにかこの一言で止めることができた。


「ど、ど、奴隷のくせに!ご主人様の命令に歯向かうなんて無礼にも程があるわ!」


彼女は電車の中で話しても迷惑にならない程度には制御されているが、耳元で言われるとやはりうるさいぐらいの声量で叫んだ。そう言って彼女は踵をぼくの足の上でぐりぐりと踏みつけた。


「痛い!痛い!痛い!」


ギリギリ声は抑えたが足がもう朝から満身創痍である。 

 ここでやっと学校の最寄り駅につき、彼女はイライラした様子で電車を降りて行ったぼくは少しその場に立ち尽くして、ドアが閉まりそうになっているのに気づき、急いで電車から降りた。


「朝からこれってどんだけついてないんだよ。ぼくは......」


全くである。

 ぼくは電車を降りたあと、日野さんをかんさつするように投稿する形になった。

 それとなく見ていると改めて彼女の人望の厚さが窺える。

 電車を降りてから一人また一人とどんどん周りに人が増えていき電車を降りてから5分足らずで10人以上の大きなグループが形成されていた。主に一年生だが、数人上級生もいるようだった。 

 さらにすごいのはそのグループに混ざってない人も彼女に引き寄せられているということである。単純な興味なのかお近づきになりたいのか知らないが、少し離れてみているとまるで普段はバラバラで登校している生徒たちが彼女を中心に引き寄せられていくようだった。なのでちゃんとみると10人くらいしか彼女と喋ってはいないが周りには20人近く人がいる。


「はぁ 全くなんでこんな人に目をつけられたんだろ...」


 これをみたぼくは改めて自らの地位の低さを思い知ったのである。

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