生物学的弱者と強者の最悪の出会い②

現在。 

「あっ 一ノ瀬くん!今部活?」


「ああそうだ。もうすぐ大会があるから。レギュラーに選ばれそうなんだよ!俺!だから練習しとかないとな!レギュラーに選ばれればマネージャーの女子にあんなことやこんなことを...ぐふふふふ」

 

 また彼は変なことを考えて.......


「ぼくらの学校ってバスケットボール部強いんでしょ。すごいよ。」


「いや確かに強いけど主に有名なのは女子の方なんだよー。全国出てるレベルでさー

ほれあっちで練習してるだろ。」


 一ノ瀬くんが指さした方を見るといかにもレベルの高そうな模擬戦をしていた。 

 けどその中でもより目立っている子がいた。


「あの人めっちゃ入れるね。」


「おっ!殻斗にしてはお目が高い!彼女は一年生でありながらいきなり1軍のレギュラーに選ばれた上、成績優秀でしかも美人という四宮学園のアイドル日野 由里香。その人であーる。」


 うちの学校にアイドルなんて立ち位置の人もがいたなんて知らなかった。よく見ると遠目ながらにもわかるくりっとした淡い青い瞳にサラッとした体型。そして何よりも目に入るのはくるくると少し巻かれたブロンド色の長髪である。どうやら点数を彼女にとられた他の女子に慰めつつアドバイスしているようだった。彼女なんかはぼくとは真逆の絶対的強者なんだろう。

 だとしても高校生とは思えないくらいにプロポーションがいいな。(この際はできるだけ言い方はお淑やかにしておこう。何がでかいとかそういうふうな言い方はしない)


「いやーすごいよ。由里香ちゃんは。外人とのハーフで美人なのに威張るどころかみんなにも優しいんだもん。彼女との夜を想像しただけでぐふふふふふふ。」


.........もう触れないでおこう

 そういえば妹もバスケ部だったな。

そんなこと思い出し妹を探してると。

「ふふっ だーれだ?」

 といきなり目を後ろから塞がれた。しかしぼくにこんなことをするのはこの世に一人しかいない。


「おい 優菜。学校で変なことすんなよ。」


「あちゃーーお兄は妹であるこの私が好きすぎて声ですぐわかっちゃたね。」


「え?殻斗がシスコンだったことにも驚きだけど、まさか一年生私的美女ランキング2位の三浦 優菜が妹だったなんて、まったく殻斗も隅に置けないぞー」


「兄弟だぞ兄弟!隅におくも何もないでしょ!

 それにに今までの一連の行動を見てなぜぼくがシスコンだという見解に至るのか不思議でしょうがないよ。どー考えてもこいつがブラコンだろ。」


 ちなみに妹はぼくと同じ学校に進学しているが、第一志望でこの高校を受けたぼくとは違い、彼女は全国的に有名な県内ぶっちぎりトップの名門校である中学に惜しくも落ち、滑り止めの受験をして、この中学に入ったのだ。

 優菜はもうブラコンと言って差し支えないほどの兄好きだ。小さい頃から舐められやすかったぼくをいつも近くで支えてくれていた。

もっとも優菜に限ってはどちらかと言えば生物学的強者であり、俗に言う陽キャであるし、世間的には美人な部類にはいる。そこに加えて人懐っこい性格なのでかなりモテるようだった。


「じゃ二人とも話せたし俺は帰るわ。」


 少し二人と話したぼくはそう言って体育館を出ようとした。その時、ぼくは日野さんがこちらを睨んでいたような気がした。

 ぼくがいくつか本屋を梯子して(金を取られたので買えはしなかったが)家に帰ると妹は友達を家に呼んでいるようで女子用の革靴が玄関に二つ並んでいた。

 うちは親がなかなかにフレンドリーなので友達を家に呼ぶと1番広いリビングを使わせてくれる。なので妹たちもリビングでならやらスマホでなにやら盛り上がっているようだった。どうやら4時間授業のおかげで部活も早めに終わったらしい。

 ぼくは一度自室に入り、着替えてからお菓子でも食べようとリビングと繋がっている台所に行った。ぼくがその部屋に入ると

 なんと四宮学院のアイドル日野 由里香が優菜の隣でスマホを触っているではないか。相手もこちらに気づいたようでこっちをみて、少し渋そうな顔をした。

 え?ぼくなんかしたかな?

 何もしてない...よな?

 トイレに行く優菜とすれ違いつつ、ぼくはコソコソと常に家に常備してあるお菓子袋の中からテキトーに食べたいもんを選び、部屋を出ようとすると、

「おい!わたしにもなんか持ってこいよ」

 え?なんて?

ぼくは驚きすぎて動きが止まってしまった。

瞬時に僕の頭は回転し状況の整理を始めた。

驚くべき点は2つある。

まず一つ目。命令の仕方である。

これまでは「〇〇してよー」などというねだりに近しいものばかりがだったのでここまでいきなり強く言われるのはほぼ初めてであるということ。ここまで理不尽にキレられながら命令されるのは初めてだった。 

 そして二つ目。それを言ったのが学園のアイドルであるはずの日野 由里香であるということである。

 僕は一回落ち着くために深呼吸を挟む。


 しかしながら僕も初対面の年下女子にいきなり命令された時の対処は人一倍うまいという自負がある。

いくら日野さん相手だろうとも決して焦りを顔に出したりしない!


そして

「あっ そういうのいいから」

と一言。

 この言葉はこれまでのぼくが何年もかけてやっとたどり着いた命令に対する究極系の一言である。これをいうと100%の確率で相手は謝ってくるので、そこに、よくタメ口で話されるから特に怒ってるわけじゃない。とか、よく命令されるから慣れている。とか、そういうフォローを入れる。

これこそ完璧なる流れである。

しかし


 「はぁ?いいからなんかお菓子渡せって!」


思考が停止した。まさかこんな答えが返ってくるなんて思ってなかった。


「あっ ごめん...はい、これです。」


とついお菓子を渡してしまう。

  そりゃそうだろう。

 これ以上の策なんて用意してないし、弱者であるぼくが絶対的強者である日野さんに命令されてるこの状況を自力で解決することもできるわけないに決まっている。

 ぼくは日野さんにお菓子を渡すと手ぶらのままそそくさと逃げるように2階の自室へ逃げようとする、しかし僕は手首を掴まれて、逃げることができなくなる。


 「これじゃなぇ、もうちょい甘いのもってこい。お兄ちゃん?」


 やばい、あいつはやばい。

だってぼくのこと兄って言ったということはしっかり立場をわかった上でこんな命令をしてくるのだ。

 ぼくの脳内の警戒アラームが鳴り響いていた。

ぼくは即座に台所にあるお菓子袋からできる限り甘いものをいくつか選び、彼女に渡した。

どうやらそれで満足してくれたらしく、

「ふんっ」と一息鳴らしてお菓子を取り、食べ始めた。

 そこに妹が帰ってきた。

 さらにこき使われるのは嫌なので買い出しのふりをして、ぼくはコンビニに逃げ込んだ

彼女が帰ったことを優菜にLINESで連絡してもらった。

 優菜はなぜ日野さんを避けるのか分からなかったみたいだが、一応帰った時は連絡をくれた。ぼくは家に帰った。そして兄弟会議が始まる。


「質問したいことはたくさんあるがまず聞いておく。今日来たのは日野 由里香本人か?」


こう尋ねたところ


「本人に決まってるでしょ。おにぃ、ほんとどーしたの今日家帰ってから青ざめた顔しちゃってさ、買いたかったラノベ買えなかったの?

 それに由里香勉強できるし優しいしクラス委員長もやってる。ついでにバスケ部の期待の新人!

 高1B組の日野 由里香って言ったら学園のアイドルって有名なんだけどなぁ」 


 「だよなぁ」 


 「あの友達がほとんど皆無のおにいでも知ってるくらいだしねぇ」


 「うるせぇ ほっとけこのブラコン陽キャが!

 それにそのことに関しては今日お前が体育館でちょっかいかけてくるちょっと前に一ノ瀬くんに教えてもらっただけだよ。」


 それにしてもまさかこんな一面を持ちぼくにだけその一面を見せるとは。本当にぼくは彼女に何かしたのだろうか?


「ほんとにおにぃどーしちゃったの?何かあったらこの優菜に話してみんしゃい。私はお兄ちゃんを信じるから。」


 ずるい、妹にこんなこと言われたらいうしかないだろう。

 僕は今日あったことを全て話した。

「うっそだー!由里香がお兄ちゃんだけに女王さまになるとかありえないでしょ!」


「いや信じてくれるんじゃなかったのかよ!

せっかく言ったのに!それに優菜だって知ってるだろう、僕の弱者体質。」 


「まぁそれは知ってるけどさぁ。

もしそれが本当だったら、

あんなに人に優しいはずの人に!年上にもかかわらず!しかも初対面で!こき使われるとか、お兄ちゃんの弱者体質も進化したもんだねぇ。もうそこまで行くと、同情を通り越して尊敬の念にたえるよ。

黙祷!」


同情を通り越すと尊敬になるんだ....。

それに黙祷て.....。


「ぼくだって好きで弱くなったわけじゃないんだから。

 まぁしかし、これ以上ぼくは日野さんとかかわりたくないから、これから家で遊ぶ時は事前に教えといてくれ。」


「こっちとしては親友と最愛の兄は仲良くしててほしかったけど、この様子じゃあねぇ。わかったよ。連絡するようにする」


 優菜はブラコンであるが故に何度もぼくを助けようとしてくれるのだが、優菜には優菜の友達に直接注意するのは、友情にヒビを入れかねないので、ぼくからそれは止めさせている。しかしそれ以外のことなら大体ぼくがお願いしたら手伝ってくれた。

 なので今回も協力してくれるようだ。

 とりあえず彼女にはできる限り会わないようにするしかないなと思った。


 次の日、ぼくは朝起きると部屋を出てまず妹に


「昨日のことって夢じゃないよな」


「私はみてないからわからないけど、昨日由里香はうちにきたよ。残念ながら」


「はぁぁぁぁ やっぱり現実だったかー」 


 そのあとはいつも通り家族で朝食を済ませて少しネットニュースを見てから家を出た。学校までは家の最寄り駅まで10分ほど歩いて、そこから二駅行ったところの駅のすぐ近くにあった。ぼくはボーっとしながら最寄駅を目指した。 

 途中でスマホで時間を確認すると結構ギリギリの時間だった。今日はネットニュースを長く読みすぎたよだ。急いで駅に向けて走る。駅にはもう電車は止まっており、全力で階段を駆け降り、電車に飛び乗った。


「はぁ はぁ あぶねぇ セーフ」


と息を切らしていると隣にも同じく息を切らしていた人がいるのに気づいた。

 同じく電車に飛び乗った人だろうか?

顔をあげて確認すると、ちょうど相手も同じように顔をあげた超絶美人の顔が目の前にあったのである。

 しかしぼくはそれに恐怖を覚えた。なぜなら昨日初対面にして下僕のような扱いを受けた日野 由里香ご本人だったからである。

ぼくは生物学的だけではなく運においても最弱なのかもしれない

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