稲荷said

稲荷said


『彼奴ら...ーーー』


傷口を抑えながら街を歩き続ける。数刻前に受けた傷が思いの外深く、歩いているのもやっとな状態だった。


『いてて…あれ、もうスラムか、』


傷ばかりに注意を向けていたせいで進行方向すらも見ていなく、気が付いたらスラム街に居た。まぁ、スラムってことは彼奴らも居るはずなんだが…。


『おっ。いたいた』


視線の先には小柄で一見子供にも見える少年、桜花 樹。


『樹〜!』


「この声、稲荷か!…ってめっちゃ怪我してんじゃん…!!」


『いやー、色々あってさ』


「…大丈夫か?」


『ま、大丈夫に見えるなら大丈夫でしょ。』


「...治療するからこっち来て」


そうして案内されるのは元々治療室だった場所だ。今じゃ廃墟と化してしまい、使う人も居なくなったので有難く有効活用させてもらっている。そしてその中には…


「あ!稲荷!!…って、凄い怪我!」


樹よりも身長が高く、手の中に注射器を持っている少女、天望 るかが居た。


「全く俺と同じ反応…」


…デジャブを感じる。


「それにしても凄い傷!珍しいー。ねぇねぇ、そんなに相手が強かったの?」


『いや、一人ひとりの実力は大して強くなかった。ただ、人数が多くてな』


敵は19人。適度に多かったんだよな…


『樹も呼べば良かったよ。そしたら秒で終わったろうに』


「んー、まぁ俺も色々忙しくてあんま行けないからな。稲荷は無駄に面倒事に絡まれるし。」


『絡まれてんじゃない、絡んでんだよ』


「はいはい、そうですか」


呆れたように此方を見てくる樹。天望は


「そういやそんな仕事だっけか」


と治療をしながら言う。…うわ、染みた。痛った。


『おう、《何でも屋》。今まで単独だったけど、最近助手が出来て張り切ってますとも』


一応俺が何でも屋ということはこの2人以外誰も知らない。


何でも屋自体はそこそこ有名なのだが、居場所が固定ではない上に俺自身も神出鬼没で、時には屋根の上や裏道、食事処。或いは普通に歩いている時もある。


つまりは俺自体を見つけ出すことさえ不可能なのだ。それは此処の2人でも該当する


「…はい、治療完了。かなりの傷だったけど明後日には綺麗に治ってるはず」


『さんきゅー。よっしゃ、俺軽く身体動かしてくるわ!』


「もう。全部完治したわけじゃないから無理はしないでよ?」


『はいよー』


そうして2人に手を振り、そのまま治療室を後にした。

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