第一章
【Vorwort】
子鈴side
「またのお越しをお待ちしております〜」
陶酔を催すような甘美な香りがする店を抜ければ、そこには街を歩く目的の人物。
以前会った時から変わらないその姿に若干の安堵を感じる。
『こんにちは、ひあさん。何年ぶり…ですかね?』
僕の呼び声に、彼女——巫ひあが静かに振り向く。
「ふふ、なるほどね。やぁ、子鈴。」
『はい、お久しぶりですね』
その顔に笑みを浮かべながら挨拶するひあさん。
彼女は手元にある紙を僕に差し出てきた。...紙には《神谷 稲荷》という名前が書かれていた。他にも記入欄が多くあることからして、恐らく──────。
「この紙に書いてある人について調べだして欲しい。今どこにいて、何をしてるのか…」
ひあさんのその言葉に、少し疑問を感じる。
『...?情報系なら、僕よりひあさんの方が断然得意じゃないですか』
僕がそう言うとひあさんは能力を発動させ、自身の耳に手を当てて何かを聞き取っている様だ。...無視ですか。
『相変わらず冷たいですね...。まぁいいですけど』
僕は紙をもう一度見つめながら
『とりあえず今日のうちに仕上げときますね。明日には報告出来ますよ』
と言った。
「分かった、ありがとう。じゃあ明日、あの場所で会おうか」
『分かりました。また明日、』
そう言って僕達はお互いに別々の道を歩き出した。
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