第13話 好き、の定義

彼氏は欲しいのですが、囃し立てられて、外堀を埋めるような恋愛はしたくないものです。そして彼氏は欲しいのですが、どうせだったら自分も好きだ、と思えるような相手と恋愛をしてみたいものです。

 午後の授業は全く集中できませんでした。五時間目は数学です。給食の後のこの時間、数式が何かしらの儀式に使う羅列に見えてしまい、私は机に頭を突っ伏していることが多いです。ですが今日は、先ほどの話が頭の中を駆け巡り、なんだかピンピンしています。視線は全く感じないのですが、変に私が意識してしまい、普段どうやって鉛筆を握っていたのかさえ思い出せません。数式は頭が冴えていても相変わらずまじないのように見えますし、これではいつものように眠たい方が罪悪感を抱かずにいられると思いました。目をしっかり開いているのに集中しないなんて、美術館を何も考えずに回るとか、博物館を何も学ばずに闊歩するとか、そういう類の罪に値すると思うのです。

 数式を見ながら、田中君のことを考えました。私は田中君に対して絶対的な好印象を抱いていたのですが、それが「好き」と結びつくのか、というとどうも違うような気がするのです。恋愛至上主義グループに聞いてみるべきか、漆黒の闇グループに黒魔術でもやってもらうべきか、悩みどころです。

 好き、というのはどういうものなのでしょうか。ドキドキすること?その人と目が合うと、嬉しいと思うこと?一目見ただけで体中を駆け巡る血液が沸騰するように熱くなること?世界が平和に見えること?好きな人以外のすべてがどうでも良くなってしまうこと?私には全く分からないのです。

 さっきの人生会議では「人を好きになる、ということについて」という内容のことを話したのですが、結局話は逸れに逸れて、田中君が私を好きなのか論争に発展してしまいました。しまいにはその恋を応援すると息巻いてしまった松本さんと吉田さんを止めることなどできませんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る