第12話 中二病的同調圧力
「なんとなく、そんな感じしてきたっ。告白されたら、なんて返そう~!」
吉田さんは相変わらずツインテールを揺らして舞い踊っています。先ほどよりも高くジャンプしている所から、かなり舞い上がっているのではないでしょうか。
「私は、加藤さんだと思うのよ」
松本さんはいきなり、私の顔面を指差しました。いきなり力強い目がこちらを向いて、私は崖の淵に追いやられた犯人のような気持ちになりました。
「なぜですか?」
困惑している私に、松本さんは話を続けます。
「加藤さんがこの椅子に座っていても、何も言わないじゃない。それにどいてほしい時は優しく『ごめんね、もう良いかな』っておずおずと入って来るし。あとは加藤さんの方、いつも向いてるよ。数学の時間なんか特に、頬杖付いて明後日の方向を向いてると思ってたんだけど、最近気が付いたの。加藤さんの方を向いているって。結構見られてるなって思わない?」
「そういえば、私もそれ思ってましたっ。田中君格好良いからついつい見ちゃうんですけど、加藤さんの方向いてますよねっ。あとこの間加藤さんがノートをたくさん抱えて教室に入ろうとしていたじゃん?その時だって、私がドア開けようと思ったら、田中君がスッと入ってきてドアを開けたのっ」
「ええ?」
二人は絶対そうだ、としきりに頷き合っています。私は全く身に覚えがないのです。だって、私の前の席はクラスで三番目に可愛い根崎さんだし、後ろは漆黒の闇グループの小野君なのです。彼はいつも何か、きっと変な呪文か何かをブツブツと唱えていて、うるさいから注目を集めているに決まっています。
何度考えても私ではないような気がして、何故か今度は手を取り合って喜んでいる二人に対して口を開きました。
「絶対に違うと思います」
彼氏が欲しかったはずなのに、田中君が私を好きだと勘違いされてしまっていることに無性に腹が立ちました。二人の動きはぴたりと止みます。
「田中君に迷惑だと思います。そんな私なんかを勝手に…」
松本さんは小さくため息を吐いて、私の肩を叩きました。
「自信ないのは分かるけど、絶対そうなんだって」
「そうですよっ。本当にいつも見てますよっ」
吉田さんはグーにした手を上下に振って、せわしなく動かしています。
「いや、でも…」
「じゃあどんな人がタイプなの?」
「え?」
「加藤さんのタイプがどんな人か知りたい。田中君のこと好きじゃない人なんているの?普通喜ぶでしょ、田中君が自分のこと好きっぽいよって言われたら」
「えぇ?」
「そうだよっ。愛理だったらすっごくうれしいもんっ」
「もし好きなんだったら、全力で応援したいし」
随分とややこしいことになりそうです。そんな面倒くさいことをしたところで、何になるというのでしょうか?彼氏は欲しいのですが、絶対に欲しいのですが、田中君には迷惑を掛けたくありません。私は私の身分相応の、平凡な男性が良いのです。
「私も頑張りますっ」
吉田さんは満面の笑みを浮かべました。と、その時、松本さんの顔がこわばりました。不思議に思い、松本さんの目線の先を追うと、前の引き戸から田中君が入ってくるところでした。
田中君は何の迷いもなく私の元にやって来ると、素敵な笑顔を浮かべて言いました。
「ごめんね、もう、良いかな?」
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