第8話 ジェントルマン、田中(非中二病)
「でもさ、唯一田中君だけは、中二病じゃないよね」
松本さんは私の座っている席を指差して、少し艶っぽい顔をしました。
「そうですねっ。田中君だったら良い感じですっ。むしろジャニーズっぽいし!田中君だけだけどっ」
田中光弘君。彼は何と言いますか、孤高の存在、という感じです。混沌とした教室の中で、彼はまさに光でした。優しい男。英語で言えばジェントルマン。そうですね、英国紳士っぽいというのが第一印象でした。
コーラスコンクールの課題曲を、ピアノで演奏してくれているのも田中君です。私たちの雑音のようなハーモニーを、素敵な演奏で三割ほど誤魔化してくれています。いつもは教室練習なので音源を使いますが、音楽室が利用できる水曜日だけは、彼の素敵な伴奏に合わせて歌を歌います。
水曜日、クラスで一番の美少女、楠さんが
「私たちのコーラス、うまくいかなくてごめんね」
と、女子からすればその落ち込みようは絶対に、絶対に嘘だろう、というような深刻な表情で、背の高い田中君にすり寄った時だって、彼はまさに英国紳士でした。
「俺の演奏がもう少し良ければ、皆もちゃんと歌うようになるのかもしれないから。こちらこそごめんね」
そう言って田中君ははにかんだのです。まさに彼はゲロの中の真珠です。ゲロに埋もれた真珠だって、輝きはそのまま真珠なのです。混沌の中にも光というものは確かに存在しています。
彼はいつも、真珠のような白いワイシャツを、綺麗に着こなしています。皺だって一つない、そのパリッとしたワイシャツから覗く力強い腕は、教室中の女子の目をハートにさせます。
女子の好きなものランキングは、きっと
第一位 イケメン
第二位 イケメンの喉仏
第三位 イケメンの腕、腕の血管、大きな手、骨ばった肩、その他もろもろ
であるはずです。彼は、中学二年生とは思えないほど大人っぽく、男らしい体つきを持っていますので、この女子の好きなものランキング(私調べ)すべてに該当しているのです。
田中君は、一匹狼です。あまり人と一緒に行動していないのです。一人が好きとか、嫌われているとか、そういう雰囲気は全く感じないのですが、ただ一人でいます。多分ですが、あまり気の合う仲間がいないんじゃないかな、と思います。
二人組を組め、と言われたときには、大体まひろ君と一緒になることが多く、それもまた彼の好感度アップの理由でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます