第7話 中二病:恋愛至上主義タイプ

このクラスの「恋愛至上主義タイプ」は何人かいますが、代表的なのは笠原君でしょう。

 なんでも約半年で八人もの女子に告白したそうなのです。先週の火曜日に見かけた関根さんへの告白で九人目です。告白を受けていない女子の方が少ないという奇妙な結果になっています。

 あの火曜日の放課後の告白も、石造りの道の上で堂々と行われていました。

「関根さん、好きです!付き合ってください!」

「え…?いや…」

「あなたのいつも笑顔なところ、声や髪の毛の質とか、その、いろんな所が好きです!」

「それって誰にでも当てはまるじゃん…」

「僕は関根さんしか考えられません!今まで少し遠回りしちゃったけれど、本当に本当に好きです!」

「いや、無理」

「じゃあ友達からでも大丈夫です」

「いや…」

「いい?」

「いや!」

「どうして?いいじゃん。僕のこと嫌いなの?」

「嫌いじゃないけど好きでもないの」

「じゃあ徐々に好きになってよ!」

「嫌だよ。そんないろんな人に告白して!」

「これからはしないから!」

 笠原君は懇願するように、関根さんの手を取りました。その瞬間、バチン、という乾いた大きな音が日の傾いた空に響きました。

「きもいんだよ!」

 関根さんは瞬時に手を取り払い、笠原君の頬を殴っていました。突然の出来事に呆気に取られてしまった私たち三人よりも、ずっと困惑した表情を浮かべているのは笠原君です。

 フン、と鼻を鳴らして、大きな足音を立てて帰っていった関根さんを、笠原君はただ茫然と見守っていました。私たちは、その寂しそうな笠原君の背中を眺めることしか出来ませんでした。

 大丈夫?と声を掛けても良かったのですが、次に好きになられたら絶対に面倒くさい、というネガティブな感情が勝ってしまいました。私たちは笠原君が下を向いて歩きだすまで、彼のその雄姿を見守り続けました。


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