第6話 中二病:漆黒の闇タイプ
このクラスの「漆黒の闇タイプ」の代表格は三人います。高場君、小野君、清水君、この三人です。
高場君は右目が見えないそうです。なんでも悪魔とある契約を交わした際に、代償として右の目玉を取られてしまい、代わりに魔術を操ることができるようになったそうなのです。眼帯を付けて登校しては先生に没収され、放課後に返してもらえば、また眼帯を付け、次の日も眼帯をしてきては没収され、また放課後に付け、という奇妙な生活を送っています。授業中、昼休み、もちろん右目はしっかりと開かれています。クラスメイトに、
「お前、目玉あるじゃん」
とからかわれたときには、
「これビー玉だから」
と答えて野次馬を黙らせていました。もちろん絶対にビー玉ではないのですが、中二病というのは、そういう類の言葉に弱いのです。
それから高場君を
「高場君」
と呼ぶと、怒り狂います。
「お前の親から先祖まで、そしてお前の未来の家族まで、悪魔と契約を交わしたこの魔術でどこまでも呪うぞ!われの名はメヴィスだ!」
そう、彼のことはメヴィスと呼ばなければいけないのです。そうしないと呪われてしまいますから。
小野君は左腕が不自由だと言っていました。ある闇の組織から地球を守ろうとした際に、左腕を奪われてしまったそうなのです。いつも左腕を押さえていますが、体育の時はしっかりと両腕を使います。クラスメイトに、
「お前、腕大丈夫じゃん」
と笑われたときには、
「この腕を疑うと、メヴィスの黒魔術が我々を津波のように襲い、俺たちはこのまま漆黒の闇に葬られることになるぞ…」
などと言います。要するに、体育の時間であれば腕を使うことが出来るのでしょう。
ちなみに小野君を
「小野君」
と呼ぶと、発狂します。
「我の名はルナティックだ。右手が、疼く…!ゴッドハンドに逆らうととんでもないことになるぞ!」
そう、彼のことはルナティックと呼ばなければならないのです。そうしないと彼のゴッドハンドで、私たちはどうにかされてしまうそうなのです。
清水君は元々あった背中の黒い羽根をむしり取られてしまってからというもの、背中に鋭い痛みが走ると言います。
カラスに従事し、カラスを敬う、それが清水君です。なんでもカラスというのは黒くて、とにかく黒くて、強そうで、格好良いそうなのです。
先週の火曜日の放課後、松本さんと吉田さんと一緒に昇降口を出ると、漆黒の闇グループ三人が、校舎脇のゴミ捨て場を覗いているのが見えました。
「何してるの?」
松本さんが怪訝な声色で尋ねると、清水君が静かな声で言いました。
「悪いことは言わない。今はとりあえず逃げろ…。そうじゃないと俺たちまで食われてしまう…」
私は彼らが覗くゴミ捨て場を覗いてみました。カラスがゴミを啄んでいるではありませんか。
「大変!」
私が思わず叫ぶと、清水君はしっ、と空気を切り裂く音を出して、唇の前に人差し指を置きました。
「これだから人間は…。この世の常識は、俺にとっちゃ非常識なんだよ…。こいつは俺と血を分けた兄弟だ…。安心しろ…」
「カラドボルグ…、行くぞ…。俺の左目と、ルナティックの右腕、お前の背中で何とかしなければならない。この漆黒の怒りを、なんとか納めなければ…!」
「帰りましょっ、虫唾が走りますっ」
吉田さんが一足先に石造りの地面にローファーの音を響かせました。私は慌ててそれを追いかけます。松本さんは去り際、清水君の背中に叫びました。
「清水君、先生呼びなよ~」
「おい、俺はカラドボルグだ…!今度カラドボルグと呼ばなければ…」
「ハイハイ」
「バイバ~イ」
「さようなら」
私たちは漆黒の闇グループの話など聞かずに帰りました。この三人は、三人特有の異世界を形成しているのですが、一歩そこに入ろうとしてしまうと何とも厄介なのです。
その帰り道、あるクラスメイトが道の真ん中で告白されていました。私の斜め前の席に座っている関根さんです。関根さんに告白している男子は、中二病第四形態、恋愛至上主義タイプです。
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