第八十三夜(ホワイトデー)
「今年のホワイトデーはお返しゼロかぁ」
「当然でしょう。誰にも渡していらっしゃらないのですから」
「あーぁ、義理チョコでも知り合いの男子たちに配っとけばよかった」
「あまり不特定多数の異性に思わせぶりなことはしないほうが身のためかと。旦那様が嘆かれますよ」
「わかってるわよ。どうせそう言われると思ってやめたんじゃない」
「ご理解いただけてよかったです」
「そういえばホワイトデーのお返しにも、バレンタイン同様ちゃんと意味があるんですって。知ってた?」
「いえ、不勉強ながら」
「あんたってマジでそういうところズボラよね。よく考えて渡さないと、彼女ができてもあっという間にふられちゃうわよ」
「肝に銘じておきます」
「でも難しいわよね。素敵な意味を持つお菓子がイコール相手の気に入るものとは限らないし」
「そこも把握して吟味することも含めて、相手への愛が問われるのかもしれませんよ」
「バレンタインもそうだったけど、まるで心理戦ね。深読みしすぎても恥をかきそうだし。だって相手は純粋に、こっちが気に入るものを用意してくれる可能性もあるわけでしょ」
「と言うより、そちらのほうが普通かと」
「なにか真意があるのかもって、期待しすぎるのもよくないわね」
「結局、なんの意味も持たないものをお返しするのが、一番心穏やかに済みそうですね」
「ちょっとときめきは足りないけど」
「日ごろからきちんと愛を伝えている恋人同士なら、そんな必要はないのではないでしょうか」
「そういうものかしらね。まあ、現状わたしにはそんな相手がいないから、ほんとのところはわかんないけど」
「そんな明るく自虐されましても……。おや、そろそろお茶の時間でございますね」
「ほんとだ。ねえ、今日のスイーツはなに?」
「本日はマカロンをご用意しております」
「……マカロン?」
「はい。お好きではなかったですか?」
「好きだけど……。あんた、本当にホワイトデーのお返しの意味知らないのよね?」
「はい。存じ上げません」
「ふーん。まあ、どっちでもいいわ。いただきまーす」
「……バレンタインにあなたに教わるまでは、ね」
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