第七十七夜(鏡開き)
「鏡開きといえば、やっぱりおしるこよね!」
「……はあ」
「なにため息ついてるの? 新年明けてまだ半月も経たないのに、今年の運気が全部逃げてっちゃうわよ」
「わたくしとてため息をつきたいわけではございません。しかしです、お嬢様」
「なぁに?」
「年末年始のお休みで、幾分か顔が丸くなったようにお見受けしますが」
「あらっ、そんなことないわよ。ふふふ」
「朗らかに返してもダメです。わたくしの目はごまかせません」
「……ちっ」
「舌打ちなさらないでください。これ以上情けない想いをさせないでくださいませ」
「はいはい、わかった。確かにちょこっとだけ体重が増えたけど、これくらいすぐ戻るから大丈夫よ。年末年始はほら、ごちそうを食べる機会も多かったから。大学にいけばいやでも動くんだし、平気平気」
「正月太りの典型的な言い訳でございますね。そう思っているうちは永遠にダイエットに成功はしないと忠告いたしましょう」
「女性の身体は脂肪を蓄えやすいの! あんたはいいわよね。いくら食べても太んないし」
「わたくしはこれでも鍛えていますから。伊達にお嬢様のボディーガードを兼任しておりません」
「じゃあわたしも明日からちゃんと動くから。それでいいでしょ? 早くおしるこ食べたい」
「かしこまりました。どうぞ」
「……えっ、これだけ?」
「はい」
「ちょっと待ってよ。一口分しかないじゃん! 餅なんて欠片くらいしか……」
「お嬢様はすでにディナーを終えていらっしゃいますので。それにティータイムにマカロンを召し上がりましたね」
「な、なんでそれを……」
「お嬢様に頼まれて買いにいったと桃井から聞きました。自分の好きなものをひとつ買っていいから、執事には黙っていろと命じたそうですね」
「…………」
「人選ミスでございますね、お嬢様。桃井はこの屋敷でもっとも隠しごとには向かない人物ですよ」
「はあ……。桃ちゃんには無理だったか」
「わかったなら観念してくださいませ、お嬢様。これに懲りたら、来年からはもう少し食生活にお気をつけください」
「わかったってば。そう何度も説教しないでよ。ほんっとに口うるさいんだから」
「これもすべて、お嬢様に一年間健康でいてほしいという、執事の願いの表れでございますよ。さあ、お召し上がりください」
「……あんたはしっかり食べなさいよ。執事は身体が資本なんだから」
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