第七十五夜(新年)

「お嬢様。あけましておめでとうございます。美しく晴れた素敵な元旦でございますよ」

「あー、はいはい。あけまして……ふわぁ」

「……お嬢様。元日くらいもう少しシャキッとなされたらいかがです?」

「うるさいわねぇ。新年早々厭味ったらしい」

「お嬢様が淑女らしいご挨拶をきちんとなされるのでしたら、わたくしが言うことはなにもございません」

「わかった、わかった。おじい様たちの前ではちゃんとするから」

「年が変わってもずぼらは変わりそうにありませんね……」

「いいの! それより朝食は? 早くお雑煮食べたい」

「今準備しておりますが、もう少々かかるかと」

「あら、なんで?」

「旦那様と奥様が……」

「ああ……。またはじまったのね。パパとママのお雑煮論争」

「旦那様だけでございますからね。味噌仕立てで餅を煮込む雑煮を好まれるのは」

「正直わたしも味噌よりはすまし汁派」

「神崎が今、二種類の出汁を用意しておりますので、お嬢様もお好きな方をお選びいただければと」

「とりあえず今日は味噌にしとくわ。すまし汁の方は明日もらう。毎回すまし汁の方を選ぶと、パパが本気で拗ねるから」

「かしこまりました。そのように手配しておきます」

「食事のあとは着替えて別邸に挨拶ね。振り袖ちゃんと用意してくれた?」

「はい。お嬢様がご希望されていた紫のグラデーションでございますね」

「そうそう。少し大人っぽい雰囲気の着てみたくて。帯はおばあ様が贈ってくださった、淡いクリーム色のやつね」

「ほかの小物もすべて用意できております」

「さすがね。食べたらばあやに着付けしてもらうわ」

「向こうで食べすぎないようにしてくださいよ。せっかくの振り袖がパツパツなんて恥ずかしいですから。嫌でございますよ、わたくしは。仕事初めがお嬢様のダイエットメニューの作成なんて」

「わかってるってば。大丈夫よ。お淑やかにしてますぅ」

「本当に大丈夫でしょうか……」

「口うるさい執事がおっかないから、おちおち太ってなんかいられないわよ」

「わたくしはお嬢様のためを想って……」

「はいはいはいはい聞き飽きた!」

「まったく、あなたという方は……」

「だからこそあんたが近くにいてくれるんでしょ?」

「…………」

「あら、赤くなっちゃって、珍しい。正月早々いいものが見れたわ」

「わたくしをおもちゃになさらないでください」

「冗談だってば。ま、今年もクビにならないようせいぜい頑張ってね、優秀な執事さん」

「はい、お嬢様……。微力ながら今年も誠心誠意お仕えいたしますので、どうぞよろしくお願いします」

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