☆第七十四夜(クリスマス)

「お嬢、誰に手紙書いてんの?」

「のぞかないでよ! それにお嬢って呼ぶな」

「はいはい。で、これなんなの? お嬢にラブレター書く相手なんかいた?」

「違うわよ。毎年このくらいの時期に書いてるの。間に合わなくなるといけないから」

「間に合わなくなる? なにに?」

「クリスマスよ、クリスマス。決まってるでしょ」

「……まさかとは思うけどお嬢、その手紙……」

「今年のプレゼントはなににしてもらおっかなー。去年はね、欲しかったブランドのコスメを一式もらったの。その前はイヤリングでしょ。一昨年のマフラーとニット帽もそろそろ新しくしたいしー」

「あの、お嬢……」

「あんたはちゃんと書いた? まだならわたしのと一緒に出してあげるから早くしなさいよ。ギリギリに届いたんじゃ迷惑よ」

「一応聞くけど、誰に……?」

「誰って……。サンタさん以外に誰がいるのよ?」

「…………」

「なに、黙っちゃって。どうかした?」

「いや……。俺からはなんも言えねえや」

「ヘンなやつ」


「お嬢様。便せんと封筒は準備してありますが、今年はまだ書かれないのですか? サンタクロースへのお手紙」

「うるさーいっ! 毎年毎年ネタにしていじってくんじゃないわよ。いい加減あきろっつーの!」

「ネタになどしておりません。わたくしは感動していたのでございますよ。十五歳になってもサンタクロースの存在を信じて、律儀にプレゼントのリクエストを手紙で出されるお嬢様に」

「ネタにしてんじゃないの! 思いっきりバカにしてるでしょ。どうせわたしの頭はお花畑のメルヘンワールドよ」

「そこまで申しておりません」

「ていうか、あんたが静観しないで一言言えば良かったんじゃない。サンタは小学生までしか来てくれないって」

「……は……?」

「知らずに中三まで手紙出し続けちゃったじゃないの。おじい様もおじい様よ。サンタさんに渡す真似して、自分で手紙をご覧になってたなんて」

「あの、お嬢様……」

「でもよく考えれば当たり前かしらね……。世界中にはサンタさんを待ち望む子どもたちがたくさんいるんだもの。大きくなったら、ほかの小さい子たちに譲ってあげなきゃダメよね」

「……左様でございますね、お嬢様。とても素晴らしいご意見です」

「そうでしょう? わたしはわたしだけのサンタさんを待つことにするわ」

「お嬢様の願いなら喜んで叶えてくれると思いますよ。あなただけの、特別なサンタクロースは」

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