第七十三夜(遠距離恋愛の日)
「遠距離恋愛って素敵よねぇ」
「……今度はなんのドラマの影響でございますか、お嬢様」
「今配信サイトで超話題になってるラブストーリー! 高校卒業を機に地元と東京とで遠距離恋愛になってしまったカップルが、様々な困難を乗り越えて結ばれるのよ」
「はあ。ベタでございますね……」
「ベタなのがいいの! この地元に残った主人公の男の子がなかなか煮え切らないのよ。家業を継ぐために進学をあきらめて地元の大学に通うんだけど、上京してどんどん都会の大人の女性になってく彼女に引け目を感じちゃって、一回だけ幼馴染と関係を持っちゃうわけ。当然それに気づいた彼女が別れを切り出したんだけど、彼の必死の謝罪に一度だけチャンスをあげたのよ。けどその幼馴染の女っていうのがくせ者で……」
「妊娠したとでも脅したのでしょう、どうせ」
「どうせってなによ。そうだけど」
「なんとも典型的と申しますか。妊娠が嘘だとバレたら、幼馴染の泣き落としからの定型文ですね。『彼女には自分が必要なんだ』」
「だからそれがいいんだってば! その騒動で結局完璧に別れちゃった二人が、偶然地方で再会するんだけど、その時には彼女はすでに別の男性と婚約をしていてね。幼馴染と破局後も未練があった彼も、彼女の幸せを願って身を引くことにしたの」
「はいはい。だけど彼女の方も彼を忘れられず、婚約破棄を持ちかけるわけですね」
「適当に言わないでよ。そうだけど」
「で、その婚約者は最低最悪のDV男とかで、別れを切り出した途端に豹変して軟禁コースでしょうか」
「…………」
「え、当たりですか?」
「うるさいわね! どうせあんたみたいな爛れた恋愛しかしてないようなやつには、このドラマの良さはわかんないのよ」
「爛れた恋愛などした記憶はございませんが……」
「学生時代はしょっちゅう違う女ばかり連れ歩いてたくせによく言うわ。そんなあんたにこの二人みたいな純情さは期待してないわよ。話して損した!」
「そのわりにノリノリで語っていらしたようですが」
「ちょっと舌が余計に動いただけよ。どうせあんたにとっては遠距離恋愛なんて、面倒くさいだけの子どものままごとみたいなもんなんでしょうけど」
「そんなことは思っておりませんよ。実際、そうした紆余曲折を経て結ばれた方は大勢いるはずですから」
「珍しい。あんたがそんなロマンチックなこと言うなんて。明日は大雪かしらね」
「わたくしも一応経験者ですので」
「え、意外。あんたにそんな相手いたの? どんな人? ていうか今は?」
「遠距離恋愛にも色々ございますから。身体は近くにいても手は届かない、なんていうパターンもあるのですよ」
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