第六十八夜(ハロウィン)
屋敷内の清掃完了。ベッドメイク、オーケー。テーブルセット、良し。ディナーの準備はあと十分で終わる。飾りつけも済んだ。お菓子は……詰め合わせが人数分とプラス予備。ふむ、完璧ですね。
ああ、桃井。今年のハロウィンは近所の子どもたちがお菓子をもらいに来るのですよ。これまでは旦那様や奥様に遠慮されていたようですが、自治会の会長さんが、子どもたちに色々なイベントを経験させてやりたいと。旦那様もああ見えて子ども好きですからね。どうせなら立派に飾りつけをして、思う存分雰囲気を楽しんでもらえとのことです。お菓子もせっかくですから、お嬢様にうかがって子どもに人気のものばかりを取り揃えてみました。喜んでくれるといいのですが。
お嬢様ですか? 例によって、コスプレ……ごほん、仮装をしてお友だちとパーティーにいかれるそうです。今年は桃井のメイド服を借りなかったようですね。それは安心しました。言っておきますが桃井、次にまた支給した制服を誰かに無断で貸し出すような真似をしたら……わかっていますね?
さて、おしゃべりはここまでです。桃井は多恵さんのところへいって、まだ終わっていない仕事を手伝うように。カボチャの削りカスの掃除とか。とにかく絶対に、けっして、万が一にも厨房には近づかないように。いいですね? わたくしはお嬢様の支度にいかねばなりませんので。
はあ、手のかかるメイドがいると気苦労が……おや、お嬢様。ちょうど今からうかがおうとしていたところです。
お一人でお支度ができたのですか。今年はまたずいぶんと……その、本格的でございますね。その姿は幽霊、でございますか? まるで別人のようですね。素顔がまったくわかりません。ウィッグでお顔が隠れていらっしゃいますし……。
リアルな血のりでございますね。お嬢様にそんなメイクの才能があったとは、わたくしまったく知りませんでした。白い着物ですから、遠目でも目立つことでしょう。腹部に刺さった包丁が、またなんとも……。まるで本物でございますね。
お嬢様? どこかお加減でも悪いのですか? 先ほどからまったくお話しになられませんが……。もうお出かけで? パーティーは深夜だから、ディナーを召し上がってからいくのでは? 子どもたちの仮装も楽しみにされていたではありませんか。お嬢様──いってしまいましたね。なんだか様子がおかしかったですが、大丈夫でしょうか。
まったく、主人が気まぐれだと執事も気苦労が……ん? お嬢様? たった今お出かけになられたのでは……。それに、その格好は? なぜ黒猫なんです? 着物姿の霊の仮装ではなかったんですか?
ずっとお部屋に……。は、はあ。わたくしを待っていらしたんですか。いつまで経っても来ないから探しに来た、と。それは、その、たいへん申し訳ございませんでした……。
いえ、なんでもございません。わたくしも疲れていたのでしょう。わたくしのまわりには、わたくしに苦労を強いる者ばかりいますからね。
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