第六十七夜(ホームビデオ記念日)
「おや、お嬢様。なにをご覧になっているので?」
「ばあやが物置きから見つけてきたのよ。わたしが子どもの頃のホームビデオ」
「この家にそんなものがあったとは知りませんでした」
「わたしもすっかり忘れてたわ。たぶんパパとママが忙しくてわたしの世話をできなかったから、あんたのおじいさんが撮っててくれたんじゃないかしら」
「そうですか、祖父が……」
「我ながら可愛いでしょ? あんまり覚えてないけど、当時はわがまま全開って感じね」
「こちらの泣きながら地団駄を踏んでいらっしゃるのがお嬢様ですか」
「お気に入りだったおもちゃを、あんたのおじいさんに取り上げられてたところよ。わたしがこっそり厨房に忍び込んで、チョコレートをつまみ食いしちゃったから」
「なんともお嬢様らしい理由でございますね」
「甘やかしながらも、こうやって適度に厳しくしてくれてたのね。懐かしいわ」
「お嬢様の保護者代わりを自称していましたからね。孫のわたくしより甘かったのでは?」
「そんなことないわよ。あんたのことだって結構甘やかしてたじゃない」
「そうでしょうか」
「でもこの頃はほとんどわたしにつきっきりで、実家に全然帰ってなかったのよね。小さい頃はあんたも、おじいさんに甘えられなかったんでしょう?」
「さあ、よく覚えておりませんが……。まだ祖母が存命でしたから、甘えるのはそちらの方でしたね。祖父とは正月とお盆くらいにしか会わなかったかもしれません」
「そう考えると、ちょっとあんたにも悪いことしたみたいね。……あ、このテープなんだったかしら」
「ラベルが薄くなっていてよく読めませんね」
「とりあえず再生してみよっと……。あ、これもしかして……」
「病院でございますね。こちらは若かりし頃の奥様と旦那様では?」
「じゃあ、ママが抱いてるのは」
「お嬢様でございましょう。生まれた時の映像ですね」
「うわぁ、ちっちゃいししわくちゃ。赤ちゃんって感じね。顔も真っ赤」
「奥様も旦那様も幸せそうでございますね。素敵な家族が誕生した感動のシーンです」
「そうね。……あら、もう一人いるわ。これ、誰かしら」
「どこですか?」
「ほら、これよ。カメラのすぐ下に見切れてる。子どもじゃない? 男の子っぽく見えるけど」
「親戚のお子様がたまたま来ていたのでは?」
「ヘンねえ。わたしの従姉妹は女ばっかりで、男の子がいたらすぐにわかりそうだけど」
「カメラの方から離れませんね。祖父の知り合いの子でしょうか」
「実はあんただったりして」
「覚えがないのですが……。でもそうだとしたら面白いですね。このしわくちゃな赤ん坊のお傍にこんなに長く侍ることになるなんて、けっして思わなかったでしょうから」
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