第十五夜(縁結びの日)

「パワースポット巡りにいくわよ」

「……なんでございますか、お嬢様。藪から棒に」

「わたし気づいたのよ。顔よし、性格よし、スタイルよしのこのわたしに、なんで彼氏ができないのか。これはもう運が悪いからとしか言いようがないわ」

「それでパワースポットにいって、運気を上げようと」

「こうなったら神様に直接、素敵な出逢いをお願いするわ」

「…………」

「その小バカにした目つきやめなさいよ」

「いえ、わたくしはただ、お嬢様はおいくつになられても、お可愛らしい思考をしていらっしゃると感心しただけでございます」

「それを小バカにしてるって言うんでしょうが」

「しかしお嬢様、パワースポットと一概に申されましても、どちらにいかれるのですか? あまり遠くへはいけませんよ」

「いく場所はもう決まってるから大丈夫。はい」

「……まさかこのガイドブックに貼ってある付箋の箇所、すべてをまわるおつもりですか?」

「ええ、もちろん」

「お嬢様、さすがにそれは欲張りすぎかと……。そんなにたくさんの神様におねだりされては、神様も困ってしまわれますよ」

「仕方ないじゃない。どの神様がお願いを聞いてくれるかなんて、わからないんだから」

「パワースポットやお守りは、いって身につければいいというものではございません。結局最後に必要なのは、その方自身の強いお気持ちですよ」

「わかってるけど、やっぱり不安なの!」

「でしたらお嬢様、こちらを差し上げましょう」

「……なにこれ?」

「わたくしのお守りでございます」

「ただのハンカチじゃない。しかもなに、この超いびつな刺繍」

「確かにそうですが、これはわたくしにとって生涯でもっとも大事な方からいただいた、この世にひとつだけのハンカチでございます。その方にとっては、深い意味も思い入れもないのでしょうけど」

「そんな大事なものなら、自分で持ってなさいよ」

「わたくしは十分幸せを授けていただきましたので。保証いたしますよ、お嬢様。このハンカチはどんなパワースポットやお守りよりも、強い力を持っております」

「そう。……でもやっぱりいいわ。それはあんたが持ってるから効力があるのよ。あんたがそのハンカチと、くれた人を大事に思ってるから」

「ええ、誰よりも大事に思っておりますよ」

「やめたやめた! パワースポットはもう少し頑張ってからにするわ。簡単に神頼みなんてよくないわよね」

「さすがお嬢様、その前向きな思考こそが運気上昇のもとでございます」

「お出かけ中止なら、ティータイムにしようかしら。今日はダージリンの気分だわ」

「かしこまりました。お嬢様のお好きなフルーツタルトもお持ちいたします」

「ええ、お願い」

「では、テラスでお待ちくださいませ」

「……いつまでもあんなもの持ってんじゃないわよ。ばぁか」

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