第十四夜(ハロウィン)

「トリック・オア・トリート!」

「…………」

「ちょっと! かわいい主人がかわいく仮装してやってんだから、なにか言いなさいよ!」

「ああ、お嬢様でしたか。これはたいへん失礼しました。あまりに完成度の高いメイド服でしたので、わたくし思わず窓掃除の指示を出そうとしてしまいました」

「こんな血のりのついたゾンビメイドに掃除させるとか、あんたバカでしょ」

「その口調、目つき、間違いなくお嬢様のようですね。ずいぶん顔色が悪いですが、お具合は大丈夫ですか?」

「だからゾンビメイクだっつの。これから大学の友だちとハロウィンパーティーしてくるから」

「はあ。皆さんそのような格好で参加されるのですか?」

「打ち合わせ通りなら、メイドはわたしだけよ。あとはゾンビのナースとCAと巫女と警察官と……」

「恐れながらお嬢様、お嬢様方はハロウィンの趣旨を理解されておいでですか? ハロウィンとは死者の魂がこの世に戻ってくる、日本で言うお盆のようなもの。その際死者にまぎれた悪霊などに生者がイタズラされないよう、自ら死者の格好をまねるのです」

「それくらい知ってるわよ。だから?」

「ですから、お嬢様のようにおもしろ半分なコスプレでは、ハロウィンにはなんの意味もないと……」

「いいじゃない、ただのイベントなんだから。こういう日じゃないと、こんな服着れないし」

「……ところでお嬢様、そのやたら完成度の高いどこかで見たようなメイド服は、どちらで調達されたのですか?」

「ももちゃんに借りた」

「ももちゃん、とは……。まさかうちの新人メイドの桃井ももいのことではありませんよね?」

「そうだけど、なんで?」

「桃井はまだこの家へ来て一週間。制服は今お嬢様が身につけていらっしゃる一着のみです」

「あら、そうだったの。一晩貸してって言ったら、喜んで貸してくれたわよ」

「その大事な制服を……よりによって血まみれに……?」

「ちょっと、その言い方やめてよ。血のりじゃない、ただの。ち・の・り!」

「そのただの血のりがべっとりついた服で、明日から桃井に仕事をさせるおつもりで?」

「ちゃんと洗って返す予定でしたぁー」

「洗うはどうせ当の桃井かわたくしですがね。まったく……。いちから教育が必要ですね、このメイドには」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る