第十夜(コーヒーの日)

「おや、お嬢様。このような時間までお目覚めとは、いかがなされましたか?」

「ちょっと寝つけなくって。あんたこそ、こんな時間になにやってんの?」

「わたくしは自由時間ですので。眠る前にコーヒーを飲みながら、少し読書を」

「へえ、あんたみたいなやつでも、仕事以外にすることあるんだ」

「……それはどういう意味でございましょうか」

「べっつにー。ねえ、悪いけど、わたしにも温かい飲み物用意してくれる?」

「かしこまりました。ホットミルクでもお入れしましょう。お嬢様の好きな蜂蜜入りで」

「ほら、仕事時間じゃないのに、すぐ引き受ける」

「わたくしをからかっておいでですか?」

「違うわよ。そんな四六時中気を張って疲れないか、心配してやってんの」

「お嬢様からご心配いただけるとは、光栄でございますね。ご安心ください。わたくしは夜、皆が寝静まったこの時間に、自分の好きに過ごしておりますので」

「あっそ。ならいいけど」

「寝る前なので、蜂蜜は控えめにしておきましょう。熱すぎないように調整しておりますので、どうぞ」

「……ねえ、わたしのにも少しコーヒー入れてよ」

「は? お嬢様はコーヒーが苦手では?」

「何年前の話してんのよ。わたしだってもう大人なんだから、コーヒーくらい飲めるわよ。ちょっとだけ入れて」

「いえ、こちらを混ぜるのは……」

「なんでよ?」

「眠れない時にコーヒーを飲むのは逆効果でございますし」

「少しくらい平気だってば」

「万が一お嬢様の気分が悪くなるようなことがあれば、わたくし旦那様と奥様に顔向けができません」

「大げさなんだから。いいわよ。あんたがそこまで言うなら」

「ほっ」

「自分で入れるから!」

「あっ、ちょっと!」

「……なんかヘンな味する」

「そ、そうでしょうか」

「ほんとにこれコーヒー?」

「…………」

「聞いてんの!?」

「……コーヒーのリキュールでございます」

「リキュール? お酒?」

「はい」

「あんた、職場でお酒飲んでんの?」

「いえ、今は時間外ですので。旦那様にも以前許可を取りましたし」

「だからってこんな紛らわしいものを飲むな!」

「お嬢様、落ち着いてください!」

「うぅ、ふらっとした」

「お嬢様はお酒に弱いのですから」

「あんた絶対許さない」

「とんだとばっちりでございます。止めたのにお飲みになったのはどなたでしょうか」

「暑い……」

「お嬢様には少々強すぎたようですね」

「ん……でも、甘くて飲みやすい、かも」

「それ以上はおやめください。コーヒーリキュールは女性にも飲みやすい代物ですが、アルコール度数は高めのレディーキラーなのですから」

「やぁだ、もっと飲む」

「お嬢様、子どもではないのですから」

「いつも子ども扱いするくせに」

「それはお嬢様が……」

「わたしだって、もうちっちゃな子どもじゃないもん。誰かさんの……隣に立っても……全然おかしくないくらい……きれいな大人になったもん……」

「お嬢様? もしもし、お嬢様? ……寝た……嘘だろ、たった一口で」

「んふふ……」

「幸せそうな寝顔ですねぇ、ったく。……そのうち襲うからな」

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