第八夜

「お嬢様、またずいぶんと気合いの入ったメイクですね。今度はどちらのコンビニですか」

「なによ、嫌味ね。どうせ知ってるくせに」

「当然です。お嬢様の執事でございますので。本日もいかれるのですか?」

「ええ。運命の人はじっとしてても来てくれないもの。こっちから探しにいかないと!」

「合コンで、でございますか。旦那様の耳に入ったらどんなにお嘆きになることか。旦那様のお寂しい頭皮に、これ以上ショックを与えないでください」

「そうね。だからパパの髪を守るためにも、あんたも黙っておくことね」

「そもそもお嬢様、運命のお相手が合コンで見つかると、本気で思っていらっしゃるので?」

「だっていつどこに現れるかわからないでしょ。チャンスがあれば無駄にできないわ」

「あれで懲りたと思っていたのですがね。本当に学習能力がない……」

「なんか言った?」

「こほん。もちろんなにも申し上げておりません」

「ならいいわ。余計なことを言ったら、文字通りあんたは自分のクビを絞めることになるんだからね」

「ですがお嬢様、これで何度目でいらっしゃいますか? わたくしが把握しているだけでも今月五回目でございますよ。いい加減、合コンでお探しになるのはやめられたらいかがですか」

「仕方ないじゃない。次の合コンにいない保証なんてないんだから」

「大体お嬢様は理想が高すぎるのですよ。選り好みしていたら、見つかるものも見つかりません」

「そんなことないわよ。確かに好みのタイプはいるけど、運命の人だったらきっとビビビッてくるもの。関係ないわ」

「ではうかがいますが、お嬢様のタイプとは?」

「そうねぇ。身長はやっぱり高い方がいいわ。十五センチくらい離れてて、キスする時にちょっと背伸びするくらい」

「……ちょうどわたくしとお嬢様くらいですかね」

「歳上で大人っぽい人とか」

「わたくし、お嬢様より三つ上でございますね」

「髪は黒が似合う人が素敵ね。チャラチャラ染めてるのは苦手だわ」

「生まれてこの方、一度も染めたことがございません」

「歳上だから余裕があって、たまに厳しい言葉もかけてきたりー」

「お嬢様、妄想ばかりでは理想の男性は捕まりませんよ」

「包容力があって、さらっと甘い言葉もくれたりー」

「まあ、そこがお嬢様のお可愛らしいところでもありますが」

「でも一番はあれよね。わたしのことをずっと大事にしてくれて、傍で守ってくれる人!」

「…………」

「あんた、なににやにやしてんの? 気味悪いわね」

「いいえ、なんでも。気をつけていってらっしゃいませ、お嬢様」

「ごきげんじゃん……気持ちわるぅ」

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