第七夜(七夕)

「本日は七夕でございますね、お嬢様。今年の願い事はさしずめ『新しい恋人が見つかりますように』というところでしょうか」

「……うるさいバカ」

「おやおや、これは重症のようでございますね。まあ、今回のことは勉強だと思って──」

「切り替えられるか! 本当に信じらんない! 人が財布忘れたから今日はおごってあげられないって言っただけで帰る!? わたしのことをなんだと思ってるのよ」

「はあ、どこまでも予想通りですね。いっそ潔いではないですか」

「しかもあいつ、他に女がいたのよ! 同じサークルに! わたしがデートのことをしゃべっちゃった中に! 昨日顔を合わせた時にご愁傷様って笑ってきやがったわ」

「最悪ですね」

「最悪よ。みんながわたしのことを影で「メンヘラお嬢様」呼ばわりしてる」

「男と友だちはよく選んで決めなければいけません。お嬢様は一応箱入り娘ですからね。まだまだ人を見る目が甘いのですよ」

「なんかムカつく」

「まあまあ。シェフに頼んで七夕にピッタリのデザートを作ってもらいましたので、それを食べて嫌なことはキレイさっぱり忘れましょう」

「……妙に嬉しそうじゃないの」

「ご自分の虫の居所が悪いからって、他の人に当たらないでください。わたくしはいつでもお嬢様のお気持ちを尊重しておりますよ」

「嘘くさい」

「短冊もご用意しておきましたから、なにかお書きになったらいかがですか?」

「『パパがどこかの執事をクビにしてくれますように』……あっ」

「おや失礼。短冊に紅茶が飛んでしまいました。書き直しですね」

「いちいち腹立つわね」

「お嬢様。怒ってばかりでは幸せも逃げてしまわれますよ。空の上では、年に一度しか恋人に会えなくても健気に待っているカップルもいらっしゃるというのに」

「織姫と彦星は、地上にいた時呆れるほど一緒にいれたでしょ。わたしはわたしの彦星にまだ会えてもいないのに」

「不安にならずとも、いつかお嬢様の魅力をすべて理解してくれるような彦星が、きっと見つかりますよ」

「いつかっていつ? もう待ちくたびれたわ! わたしは年に一度のデートじゃ満足できないわよ」

「さあ。案外相手もすぐ傍で、おんなじことを思ってるかもしれませんよ」

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