第四夜(ジューンブライド)
「ふぁ~……きれいなドレスだったなぁ」
「お嬢様、そこはたとえ思っていなくとも、「きれいなドレス姿だった」と言うべきです」
「失礼ね、ちゃんとそう思ってるわよ。言葉の綾よ、あ・や!」
「それはたいへん失礼をいたしました」
「だって実際とてもきれいだったじゃない。繊細な刺繍の裾も、上品に縫い込まれたパールも、風になびいて揺れるベールも……。すべて
「確かに涼子様は非常におきれいでした。大人の女性の気品溢れる佇まいに、輝くばかりの幸せな花嫁のオーラはまさしく世の女性の憧れでしょう。お嬢様の従姉妹とはとても思えません」
「さすがオーダーメイドのドレスよね。わたしが結婚する時も、同じデザイナーにお願いしようかしら」
「夢を見るのは勝手ですが、一体いつのご予定ですか?」
「わたしの時はもっと盛大にやるわ。式場はハワイもいいけど、秘境みたいなロマンチックな場所で挙げるのも素敵よね。挙式はおごそかに、披露宴をうんと華やかにするの」
「お嬢様、そろそろお戻りを。ふたつの意味で」
「お色直しは最低でも五回ね。涼子姉様も一回だけなんてもったいないわ。色はそうね。イエロー、ピンク、エメラルドグリーン、マリンブルーにバイオレット。ああ、でもワインレッドも捨てがたいわぁ。もちろんパステルカラーも素敵だけど。なんでも似合っちゃうっていうのも、こうなったら困りものよね」
「お嬢様、いい加減になさいませ」
「それで旦那様にはね、わたしが選んだオーダーメイドのタキシードを着てもらうの。白が定番だけど、シルバーグレーも似合うと思うわ。ネクタイと襟は深いブルーにして、わたしのブーケは白をメインにブルーを混ぜるの。はあ、早くその時が訪れないかしら……」
「妄想は終わりましたか、お嬢様。楽しんでくださったならなによりです」
「なんなのよ、今日はずいぶんと突っかかるじゃない」
「なんのことでしょう。わたくしは至って真面目にお嬢様を諭しているだけでございますとも」
「そんな生意気なことを言ってると、わたしの結婚式には呼んであげないわよ」
「それはいかがでしょう。わたくしはお嬢様にお仕えする身。式当日もお嬢様の身の回りのお世話をしなくてはなりません」
「式の支度なら手慣れたプロがいるでしょ? あんたは家でわたしのハネムーンや引っ越しの準備をしてればいいわ」
「はあ、結婚直前までわたくしを酷使するおつもりですね」
「当然よ。だってあんたはわたしの執事だもの。今から媚びを売っとけば、結婚後も新居で使ってやってもいいわよ?」
「お嬢様と、まさか早坂くんにですか? ご冗談を」
「そんなこと言っていいのかしら。露頭に迷っても知らないわよ」
「たとえそうなっても、お嬢様と早坂くんにお仕えすることだけは断固拒否いたします」
「やあね、ちょっとした冗談にムキになっちゃって。らしくないわ」
「お嬢様のせいでしょう」
「は?」
「いいえ、なんでもございません。それよりお嬢様、これからご親族の皆様と食事会がございます。早くお召し物を変えた方がよろしいかと。わたくしも着替えなくてはなりません」
「ああ、そうだったわね。あんたの執事服以外の姿って珍しいから、もうちょっと見てたかった気もするけど」
「恥ずかしいのでおやめください」
「……あんたも結構似合いそうよね、シルバーグレー」
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