第32話 開戦

軍議の翌日。俺たちは味方の進軍開始後、ある程度タイミングを合わせつつ敵飛行部隊の陣地を強襲することとなった。




 本来は敵を迎撃する作戦だったようだが、被害を最小限に抑えるためには先手必勝らしい。




 特に、今回はフェアリスがやる気満々で、俺は船だけ操作してればいいと言い切られてしまった。まあ、やる気がある分にはぜんぜん構わないのだが。






 味方が前進を開始する。先方に速度に優れる騎馬隊。その後ろに速度強化を掛けられた軽装歩兵、最後に重装歩兵が続く。




 一般的な陣形とは若干異なるようだが、俺たちの強襲後の混乱を最大限活かすため進軍速度を重視した結果らしい。


 それと、俺たちの船で兵士を運搬する作戦も検討されたが、逆に同士討ちを招く可能性があるため、いつも通りの四人だけで突撃する予定だ。


 将軍からは敵陣に入ったら派手に暴れ回ってくれとの指示を受けている。






 味方が進軍を開始したため、こちらも離陸する。


 低高度を維持しつつできる限り発見されないように進む。


 船の周りには風の膜のようなものを張っているので強引な操作をしても傷がつくことは無い。




 そして、ある程度進むと敵陣地が見えてきた。


 偵察らしき敵兵をフェアリスが次々に弓で落としていく。




 魔力的な隠ぺいについても、レイアが魔眼により監視してくれているので抜けが無い。


 というより初めて使っているところを見たかもしれない。


 ちなみに、普通に目で見ているのと変わらないのでかなり地味だ。本人にはさすがに言わないが。




 かなり接近した。これ以上は見つかりそうなので先頭を馬で駆けている将軍に視線を送った。


 彼も同じことを思っていたようで全軍突撃の合図がされる。




 俺は船の周囲に張った風の膜を濃くしつつ敵陣に突進、反応出来た少数の敵から迎撃を受けるも攻撃を弾きながら敵の中心に隕石のように突っ込んだ。




 凄まじい轟音が響き土煙が舞い上がる。


 打ち合わせ通りいったん風の膜を解除するとフェアリスとレイアが突撃していった。




 フェアリスは風読み、レイアは魔眼とそれぞれ視界不良の中でも相手の姿を発見できる手段があるとのことで今回は俺は船とサクラの護衛でお留守番だ。俺が突っ込まないのは何気に初めてな気がする。






 船に気づいた敵ももちろんいたが、全て攻撃を弾く。そして、だいたいこちらを攻撃している最中に、後ろからフェアリスの魔法か弓で倒されていった。






 土煙が完全に晴れると敵の陣地はほぼ落ちたようだった。


 フェアリスは凄まじい速さで移動し、敵の飛行魔族が飛ぼうとすると瞬時に叩き落していた。




 そして、敵の魔術師と思われる後衛部隊に対し、魔術を避けつつレイアが突撃、支援魔法を妨害する。




 味方の被害は軽微、敵の被害は甚大とお手本のような戦いで緒戦は幕を下ろした。






 


 その後、敵に陣地の陥落の情報が伝わるよりも早く俺たちは進軍。




 準備の整っていない小さな砦や城を次々に落としつつ、クラウダがいる港湾都市アクアラインへ順調に歩を進めた。








 目の前には堅牢な城壁が聳え立っている。どうやら、あれが港湾都市アクアラインのようだ。 


 流石に敵もこちらの接近に気づいているようで城門は固く閉ざされている。




 また、都市には逃げ遅れた人間がまだ囚われていることが巨大な文字で壁に書かれており、今までのように船で突撃する作戦は難しい。 




 そして、両軍睨み合った状態で迎えた三日目の夜。急遽将軍の天幕に呼ばれた。


 サクラを伴い話を聞きに行く。




「脱走者?」




「はい勇者様。脱走というより城壁に抜け穴があることを我々に知らせにきた者のようです」




 将軍は、一人の男が闇夜に紛れて陣地に近づいてきたことを伝えてくる。


 念のため現在は監視を置いて見張っているらしい。




「だったらなんで今まで逃げ出さなかったんだ?」




「どうやら、小さな子供がおり、逃げ切れないと思っていたようです。また、抜け穴自体も水路を潜る必要があるとのことで子供にはそれすらできないので諦めていたと」




「なるほどなー。つまり、自分だけなら抜け出せるから味方の軍が布陣していることを知って案内しに来たってことでいいのか?」




「そうなりますな」




 話自体は筋が通っている。だけど、このタイミングでこんなうまい話が転がってくるものなのだろうか。






「実際将軍はどう思う?罠の可能性はあると思うか?」




「半々というところでしょうか。ですが、試す価値はあるかと。敵の飛行戦力が戻ってこぬとも限りませんし、そろそろ住民の被害覚悟で攻城戦をせねばならんと覚悟していたところでしたからな」




「そうか。作戦は?」




「はい。勇者様のパーティとこちらの精鋭が抜け穴を使って突入。その後二手に分かれ、片方はクラウダの首を、もう片方は城門を確保しに向かうという案を考えています」




「両方いっぺんにとは将軍は欲張りだな」




「はっはっは。両手に花とは戦場でも使える言葉のようです」




「二つとも取れれば戦は終わりか。わかった、それでいこう。俺たちはどっちに行けばいい?」




「クラウダの方をお願い致します。やつは強い。ですが、他の者が周りを抑えつつ、勇者パーティ全員で当たれば流石に負けることは無いかと。念のため、実際に戦う姿を見ていたフェアリス殿にも確認し、その戦力なら勝てるはずとの言葉を頂いております」




 フェアリスにか。肉親が戦ったくらいだからかなり精度の高い戦力分析だろうな。




「よし。いつやる?」




「勝つための鉄則は最速で駆けることですからな。今夜決行します。一時間後には準備が整うかと」




「わかった。俺たちも準備するよ」




「よろしくお願いいたします」






 将軍との軍議を終え、横で話を聞いていたサクラに問いかける。






「サクラは今の作戦どう思った?全く口は挟まなかったけど」




「特別聞いていて問題のあるところはなかったと思います。それに、バルトロ将軍は魔王軍との戦いでもほぼ負け知らずですからね。彼が言うなら間違いは無いかと」




「そうか。まあ、素人が頭を悩ませたところでしょうがないな。とりあえず準備するか。


 準備といっても四人しかいないしほとんどないんだけどさ。」




「そうですね。勇者様は戦いに備えて気持ちの準備をして頂ければ大丈夫です。


 必要な道具や他の方への連絡は私の方でやっておきますので」




「いつもありがとう。助かるよ」




「いえ。これが仕事ですので」




 サクラが去っていく。とりあえず、体を少し温めておくか。








 体を動かしているとどうやら全員の準備ができたようだ。


 サクラに呼ばれ、他のみんながいる場所へ赴く。




 兵たちは順番に特殊な黒い粉を掛けられていく。


 夜戦用のカモフラージュらしい。




 俺も例外では無いようで、兵士は恐縮しながらも俺の体を黒く染めていく。




 相手がどれだけ強いのかはわからない。でも、勇者は負けるわけにはいかないんだ。




 聖剣は現在消してある。だが、俺の手はそこに剣があるかのように強く握り締められていた。


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