第31話 一人きりの王様

軍議でクラウダの名前が出た時、思わず立ち上がり声を出してしまった。




 周囲の目が集まる。やってしまったと思った。


 ここにはエルフを代表するものとして席を置いている。個人としての態度ならまだしも、集団の長としてここにいる以上は恥ずべき行為だっただろう。




 私はエルフの長として相応しくなくてはいけないのだから。








 父は、エルフの誰もが憧れ、尊敬するような素晴らしい人だった。


 魔王軍が来た時も常に先陣に立ち、敵を屠っていった。




 だが、あの人はあまりに強すぎたのだろう。他のエルフは自分の力への自負もあったが、父を真似するように森の中を駆け回り、戦線をどんどん広げていった。




 命令が伝わる速度が落ち、各個撃破される。


 気づいた時には包囲されていた。


 もしかしたら敵はわざとそうなるように仕組んでいたのかもしれない。




 


 だが、父は包囲を突破することを即座に決め、先陣を切って敵の戦列に大穴を開けた。


 状況は好転した、はずだったのだ。そこにクラウダがいなければ。




 エルフの誰もが父の勝利を疑わなかった。だが、そうはならなかった。




 クラウダが重傷を負い撤退したのが唯一の救いだったものの、エルフは恐慌状態になっていた。




 だから、私は父に代わって指示を出し、強さを見せつけ、エルフ達を率いて包囲を突破した。多くの同胞の死を横目にしながら。










 神樹で作られた船の先で佇む。


 この船の周りはとてもいい風が吹く。優しく包み込んでくれるようにも感じる。






 私は包囲を突破した後、人間と交渉し、安全な場所を確保できるように努めた。




 頭を下げるなんて嫌だった。でも、同胞のために我慢した。




 集落に戻ると皆が感謝してくれる。だが、私は知っているのだ。




 人間に媚びを売るなんてといっている者がいることを、そして、やはり先代とは違うなと思っていることを。






 エルフは長寿な種族で、そして長い間他の種族と関わることさえせずに森に住んでいた。




 そして、ハイエルフはそれより長寿で父が昔からずっと長を担っていた。




 その弊害だろう。


 私は長の重責を感じたことが無い。当然だ、先代が若く、優秀だったのだから。誰もそれを支えなくてもいいほどに。






 私は長として相応しい行動を何が何でもしなければいけない。父の代わりなのだから。




 気高く、冷静で、強い存在に。




 誰の手も借りなくても全てを成し遂げられるほどに。

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