第28話 フェリーの中の人気者
雨が強いので、ザックにゴミ袋をかぶせて背負う。一時間近くかかって函館フェリー乗り場に到着する。
12:10発、青森行きのフェリーの出航まで1時間以上ある。
ロビーでゆっくり読書。この次のフェリーが「台風のために運航中止」との張り紙。ロビーの大きなテレビで、激しい雨風に吹き飛ばされそうになりながらしゃべっているレポーターが
「こちら青森です。えー、キャー、うわっ、すごい風です!」
台風は、今まさにこっちに向かっているらしい。
フェリー乗り場にもテレビカメラが来ていた。運航中止の張り紙をアップで撮っていたが、10分もしないうちに帰ってしまった。
フェリーに乗り込む。フェリーは来る時よりも一回り小さいが、客もあまりいない。1番テレビに近い所に僕たちが陣取り。その隣りにかわいい子ども3人を含む大家族七人。1番奥の隅っこに高校生ぐらいの男2人。
荷物を投げ出してテレビをつける。いきなり画面いっぱいに「台風のため運航中止」の文字。どこかで見たなと思っていたら、次に僕のザックがアップで映し出された。僕のザックである証拠に、新潟のカップルからもらったピンクパンサーがザックの頭で揺れている。画面がザックから引いていくと、そのザックの横で腕組みをし、疲れたような困ったような顔をしてうつむいている男が1人。もじゅだ。えっ?僕じゃないの?
大家族のおばさんがもじゅに気づき盛り上がるが、僕だけは画面の中に自分の姿を探し求めていた。
「台風のために足止めを食った利用客は途方にくれています。」
というナレーションが入って函館の映像は無事終了。台風の中を途方に暮れることなく青森に向かっているもじゅは、フェリーの一室でちょっとした人気者になっていた。
僕はあの時、画面からちょっと外れた売店で雑誌を立ち読みしていたのだ。おー何ということだ。全国ネットやぞ!全国ネット!などと叫んで見ても後の祭り。
一息つくと、僕たちはタオルだけを持って風呂に行く。富良野で温泉に入って以来だ。シャワーしか使えなかったが、ためていた汚れを脱ぎ捨てて、体が軽くなったような気がする。
青森に着いてからの作戦を練って、後はごろごろする。ごろごろゴロゴロと意味もなくごろごろしてたら青森に着いた。
本州上陸。雨が凄く。波が高い。建物の中に逃げ込み待機。とても出発できない。
5時を過ぎて、雨が少し小降りになってきたので出発する。今日はこれから高速を使って行ける所まで行き、明後日までに宿にしざわに帰ることになっている。
手をあげるとすぐに軽自動車が止まり、暇そうな兄ちゃんが顔を出した。男ばかり3人乗っている。僕たちが手をあげていたのは逆方向だったみたいだが、行ってくれることになった。軽に男5人、ぎゅうぎゅうと音がしそうなぐらい苦しい。また雨が強くなってきた。
青森ICの手前で降りる。雨を防げそうな建物がないため、ヒッチを中断して道を外れる。真っ暗な道を小走りでさまようが、店どころか明かりさえ見あたらない。
怪しげな山道の入り口に「天清寺」という看板を見つける。かなり不気味だが、お寺なら誰かいるかもしれないし、雨宿りぐらいは出来るだろう。僕たちは懐中電灯を握りしめ山道を登っていく。
天清寺はすぐに見つかった。真っ暗で人の気配はない。お堂の横に、合宿所のようなものと小屋があるが閉まっていて入れない。お堂の軒下に荷物を置ろし、合宿所の横の傾いた水道の水で米を炊く。水を足して「カニぞうすいの素」を入れる。食感に変化をつけるためスルメを裂いて放り込む。コッフェルの下でゴウゴウいっている火であぶったスルメは、真っ黒に香ばしくそりかえる。
雨が上がり、黒く深かった空も青色に変わっている。スルメ入りカニぞうすいを食べ終えた僕たちは、急いで出発する。さあ、東北縦断だ。
夏ヒッチ @Makoto20yearsago
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