第27話 朝市

 この先にはコンビニもないのか、このコンビニに結構車が入ってくる。

 出ていく車に向かって手をあげていると、久しぶりのトラックが止まった。スキージャンプの原田に似ている兄ちゃんだ。街に入ったところで降ろしてもらう。その後も優しい年輩の夫婦と、めがねの男を乗り継いで、豊浦まで来た。

 トンネルを抜けて、十字路になってる所で降ろされる。真っ暗。僕たちが立っている所だけ明かりが点いているが、それ以外は前後左右上下どこを向いてもピカリとも光らない。後ろには、今にも崩れそうなトンネルが大きな口を開けている。もうめちゃくちゃ怖い。

手のひらほどもある蛾が光を求めて集まってくる。この明かりだけが頼りなのに、頭の上をモスラみたいな顔をして飛ばれると、気味が悪くて居ても立ってもいられない。

 本当に怖くて、泣きそうな顔で手をあげているが、たまに通る車も僕たちに気づかないようだ。こんな場所でつかまらないのは分かっているが、この明かりの下を離れて、真っ暗な道を歩き出す勇気が、僕たちのどこを探しても見つからない。

 雨まで降り出して、本当にどうして良いか分からなくなっているところに、1台の車が止まった。

 僕たちを暗闇の恐怖から救ってくれたのは、函館まで出張の会社員だった。途中で1泊して、明日着く予定だったらしいが、僕たちが函館まで行きたいと言うと、函館まで行ってくれることになった。

 雨が強くなってきたと思っていたら、台風9号が来ているらしい。この人が乗せてくれなかったら、僕たちは…。

 安心したのと、車の中が暖かいのが手伝って、やけに瞼が重い。猛烈な眠気と戦いながら、函館の話を聞く。この人は月に1度は出張で函館に来るらしい。古風なレンガの建物が独特だとか、毎朝市場では、朝市が開かれるということを教えてくれた。朝市は観光客向けで決して安くはないが、雰囲気があって結構面白いらしい。市場は函館駅の前にあって、フェリー乗り場からも車で10分ぐらいだというので、函館駅まで乗せてもらうことにした。今日は駅で寝て、明日は北海道最後の思い出に朝市に乗り込む。

 駅に着いたのが12時前。ホームレスの方々や、終電に乗り遅れて、始発を待つ人が数人横になっている。僕たちもベンチに落ち着いて、寝る準備をする。ザックを抱えるようにして寝ようとしていると、駅員さんが近寄ってきた。

 その駅員さんは、駅で寝ている人がよくスリに遭うため、見回っているのだと言いながら、僕たちの横に座った。僕たちがヒッチハイクで旅をしてきたと言うと、

「あの喫茶店は7時まで開かないから、向こうで寝たらいいよ」

とアドバイスしてくれた。

 言われた喫茶店の前に移動して横になる。うとうとしながら、何度も目を覚ます。6時過ぎに起きて朝市に乗り込む。

 市場というより商店街といった感じで、通路には人がいっぱいだ。カニや甘エビが並ぶ店の奥からは、ねじり鉢巻のおやじの声がとんでくる。

「よっ、お兄ちゃん!このカニ活きがいいよ!おみやげにどう?」

カニよりも活きのよさそうなおやじが、カニの足を突き出して迫ってくる。僕たちはその迫力に押されながらも、味見のカニだけを味わいつつ逃げる。通路をもう2,3周すれば腹一杯食べられそうだった。

 市場を出てフェリー乗り場に向かう。出来ることなら、朝市で具がいっぱいの海鮮丼を食べたいと思っていたのだが、値段を見てあきらめた。どこかに安い店はないかと探しながら歩くがどの店もまだ開いていない。

 どうしても腹が減ったので、何か口に入れようと歩道橋の下で湯を沸かす。千歳のコンビニで買った「焼き弁」を食べる。

 「焼き弁」というのは北海道限定の「焼きそば弁当」の略称。日清の「UFO」みたいなものなのだが、粉のスープが付いていて、捨て湯でスープが飲めるという工夫がなされている。焼きそばとスープだけで「弁当」と呼ばれているのはどうかと思うが、北海道のみなさまには大変人気がある。

 みそ汁を飲んでいると、どこからかおじいさんが現れて話しかけてきた。寒いねぇと言うから、みそ汁を勧めると1人で全部飲んでしまった。ふらふらと去っていくおじいさんを見ながら、僕たちは笑うしかなかった。

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