第25話 赤いキャンピングカー
北竜PAのホテルのロビーで雨宿り。いかにも泊まり客がちょっと早起きをして、ロビーのソファーで新聞でも、といった感じを装いながら、雨足が弱まるのを待つ。ちょっとのつもりが、つい本気になって1時間以上ゆっくりする。
9時過ぎにやっと出発。国道を走る車とPAから出てくる車とに2人別れて手をあげる。30分ほどで、国道に立っていたもじゅの前に赤いキャンピングカーが止まった。運転席にはシティーハンターのファルコンのようなガタイのいいハゲ、助手席にはきれいなおばさんが座っている。この2人だけかと思って乗り込むと、後ろには子どもが2人座ってトランプをしている。4年生の男の子と3年生の女の子。僕たちは早速2人の前に陣取り仲間に入れてもらう。
まずは神経衰弱。なかなか減らないカードをわざと間違えつつ接戦に持ち込む。
次は手品。覚えたてといった手つきで、ぎこちなく行われる儀式をハラハラしながら見守る。
そして、やっと僕の出番だ。まずは手品で魔法使いになりすます。
「兄ちゃんは実は魔法使いやねん!」
という衝撃的は告白から、何でもない手品を2つ見せると、
「おかあさん!このお兄ちゃん魔法使いや!凄い!!」
という事になり、ランランと輝く4つの目玉がこっちにはりつく。気分が良いのでもう1つネタを披露。
「パン屋さんの歌、教えたげよか」
「パン屋さんの歌」というのは、ちょっとした歌ゲームだ。
パン屋さんのお店の前を駆けて通りゃ~♪
パン屋さんのお店の前はパンばかり~♪
あんパン 食パン クリームパン♪
コッペパン ジャムパン あじつけパン♪
パン屋さんのお店の前はパンばかり~♪
独特の節で歌いながら、歌詞の「パン」に併せて手をたたく。また、歌を覚えたら「パン」を口に出さずに手拍子だけにするのも面白い。
女の子は顔を僕の口の前まで持って来て聞いている。初め照れくさそうにしていた男の子も僕の手拍子に併せて手を打っている。僕が急に歌い出したのに驚いていたおばさんも、子どもたちのヘンテコな手拍子を見て、運転中のファルコンをつついて笑っている。
子どもたちがやっと歌を覚えた頃に車が止まった。おばさんが笑顔で振り返り、
「お昼は食べたの?」
もう11時過ぎだ。2人とも朝から何も食べていない。
ここが仕事場だと言われて降りてみると食堂だった。ドアに「理尾」と大きな文字。ずんずんと店に向かうファルコンの、やけに背筋の伸びた大きな背中が力強い。
今日は休みだから残り物しかないと言って出してくれたのは、真っ白いご飯とあったかい豚汁、それとサバの煮込み。昨日の朝凍えそうになってから、あったかいものを口にしていないので、この時の豚汁は特別うまかった。おまけに
「お腹がすいたら食べな」
と、片手で持てないほど大きなおにぎりを2個づつ包んでくれた。
僕たちが出発すると、子どもたちは道路まで出てきて一緒に手をあげた。僕たちは何度も何度も振り返りながらその場を離れた。子供たちは僕たちが見えなくなるまでいつまでも手を振ってくれた。
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