第22話 日本最北端の地
音威子府からの車は、少ししか進まず佐久で降ろしてもらった。道のすぐ横を天塩川が流れているので、とりあえず足をつける。水は痛いほど冷たい。
そこで30分ほど休憩してから出発する。またもトラック。砂利を積んだトラックで、運転手のおっちゃんが何となく宿にしざわの敬市さんに似ている。この車が日本海側にある工場まで行くと聞いて、そこまで乗せてもらうことにした。遠回りにはなるが、日本海という響きが懐かしい。もともと僕たちは日本海に向かって旅を始めたのだ。
車を降りてから少し後悔した。海沿いの道はとても冷たい風がごうごうと音をたてて吹いていて、気を抜くと真剣に飛ばされてしまいそうだ。
店を発見して逃げ込む。「いもだんご」「かぼちゃだんご」というお餅のような団子を頼んでくつろぐ。おばちゃんがコーヒーをおまけして持って来てくれた。
一週間ぶりぐらいでニュースを見ると、若の花、貴の花の兄弟喧嘩とか、大リーグのマグワイアーとソーサーのホームラン競争などで世の中は盛り上がっているようだが、僕たちには全く関係ない。
店を出て風の中を進む。雲行きがあやしくなってきた。北海道に来て3年目のお兄さんが止まってくれた。まだ若くて僕たちとたいしてかわらない。特に当てはなく、暇潰しのドライブだという。僕たちが宗谷岬を目指していると言うと、自分も行ったことがないから行ってもいいということになった。浜風が吹き荒れ、雨まで降ってきても車はビクともせずに宗谷岬を目指す。
海沿いの一本道をひたすら北へ向かうこと1時間あまり、日本最北端の地「宗谷岬」、今回の旅の最終目的地にやってきた。おじさんおばさんの団体さんが列になって写真を撮っている。合間を見て僕たちも3人で記念撮影。
ここから見る北の海には、天気が良ければ礼文島、利尻島がくっきりと浮かび上がる。残念ながら僕たちの前に広がっているのは、灰色の低い空と、どこまでも広がる海だけだが、かえって最北端といった感じが伝わってくる。
日本最北端の公衆電話から家や友達に連絡をし、日本最北端のバス停で一休みする。やたらと日本最北端の店が建ち並び、海岸の岩、バス停の壁は落書きだらけだ。「まさる参上」などのバカな落書きが目障りだが、バス停の天井の大きなのび太くんの顔には笑った。日本最北端ののび太くんだ。
バス停には僕たちの他に、大きなカバンでの1人旅などが似合わない、とてもかわいい女の人と、自転車で来ている男が休んでいた。この男がまたジャイアンに似てるんだ。
女の子には話しかけにくいので、まずはジャイアンに話しかけてみる。東京の人で、7月に出発して9月いっぱい北海道をまわって、雪の降ってくる10月からは南に向かうと言っていた。
持っていたおかしをジャイアンに勧めたのをきっかけに、女の子にも話しかける。
中「どちらから来られたんですか?」
女「東京からです。」
こっちを向いた彼女は本当にかわいい。声も透き通るようにきれいだ。大学3年生だから僕たちよりも1つ年上になる。
中「お1人ですか?」
女「えっ、はい、、、」
一瞬の沈黙をもじゅが破る。
「何かあったんですか?」
誰もが気になることだ。こんなにかわいい女の人が、何故に1人で宗谷岬に?
彼女は質問には答えず、旅館の主人にも同じ事を聞かれたと言って笑っていた。
彼女がカメラを持ってないと言うので、一緒に撮りましょうと言って外に出ると、ジャイアンまでついて来た。
彼女ともっとお話をしていたかったが、いつまでも休んでいるわけにはいかない。住所を交換して僕たちは出発する。
さあ折り返しだ!
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