第21話 野宿の寒さ

 国道40号線まで歩き、そこからヒッチ開始。やけに古本屋ばかりが並んでる国道沿いを手をあげながら移動。20分ほどでカップルが止まってくれた。

 声の小さな彼女と、優しそうな彼の車に揺られながら旭川を後にする。

 士別までのところを、名寄まで行ってくれた。稚内まで後170kmである。

 今日はここで野宿することにする。商店街のド真ん中に降ろしてもらったのだが、どこも閉まっていて真っ暗だ。不気味な商店街を歩きながら段ボールをもらえそうな店を探す。

 こんな時、もじゅの笑顔が頼もしい。今晩寝る場所もない僕たち2人。振り返ると乗り継いできた親切が道となり、一寸先には未知だけが広がるこの暗闇で、1つの笑顔は2つの力になる。

 国道沿いにスーパーを発見し段ボールをもらう。吹きつける風がかなり冷たく、風避けでも無ければとても寝られそうにない。20分ぐらい歩きまわって、何とか福祉会館と書かれた建物を発見した。かなり大きな建物で庭には野外ステージまである。この野外ステージの上なら、舞台正面から以外の風は防げる。僕たちは段ボールを広げ、着れるものは全部着込んで寝袋に潜り込む。

 僕は寝袋があるが、もじゅは毛布のようなものが1枚あるだけだ。僕が頭まで寝袋の中に潜り込んでいても震えが止まらないのだから、もじゅは堪らないだろう。隣でごそごそしているのは分かっているが、僕もかまってやる余裕がない。必死に目を閉じる。

 4時過ぎ。寒さを感じていることで、自分の目が覚めていることに気付く。

 僕が頭を起こすと、もじゅも頭をあげた。眠れなかったに違いない。2人とも、みの虫のようになって肩を寄せ合う。

 うそのように身体が動かない。寝袋から手を出すのもやっとで、上体を起こせない。今まで寝床にしていた段ボールを小さくちぎり、やっとのことで火を付ける。弱く小さな炎だが、なんて暖かいんだろう。かざす指先で温まった血液がゆっくりと流れてくるのが分かる。

 沸きたてのスープで冷え切った体を励ましつつ身支度をする。何とか荷物を1つにして出発。国道沿いのコンビニに入る。レジにあるテレビの天気予報を見ると、本日6時現在の気温が6度となっている。

「ろっ、6度!?」

 僕たちが興奮した声をあげると、コンビニの店長は、

「2度か3度ぐらいまで下がってたんちゃうか」

 野宿をしていたと言う僕たちにあきれながら言った。

 もやで白くぼやけた名寄の町を歩く。体が温まってくると、この冷たく張りつめた空気がなんとも気持ちいい。

 トラックで一気に進みたいと思っていたら本当にトラックが止まった。

 この道30年という西野さん。ヒッチハイカーをよく乗せるということで、家に泊めたヒッチハイカーが毎年何人か遊びに来たりもするらしい。

 北海道で一番大きいトラック組織で、北海道全土を仲間のトラックが走っているのだそうだ。同じ道を15分おきにトラックが走っている計算になり、今この車が事故って無線で呼ぶと、30分で2、30台は軽く集まると得意げだった。

 パンを積んだトラックが通ったら朝飯を食わしてくれると言っていたが、朝飯に出会う前に音威子府(おといねっぷ)まで来てしまった。

 西野さんは分岐点で車を止め、コーヒーを奢ってくれた。そして、トイレに入った西野さんは、隣りにもう1人おじさんを連れて出てきた。トイレの中でどこまで行くのか聞いて、僕たちを乗せてくれるように頼んでくれたと言うのだ。僕たちはびっくりした。

 その上、困ったら連絡しておいでと住所まで書いてくれた。何度も何度もお礼を言う僕たちに、西野さんは右手をあげてにこっと笑った。その笑顔がめっちゃかっこよかった。

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