第19話 麓郷には、、、
寝る前に萱原が、明日の1台目は自分が乗せてやるというものだから、
「おれたちは9時に起きて10時には出発するから、それまでに車を用意しとけ!」
と偉そうなことを言って布団に入ったのだが、10時に萱原に起こされて、やっと山の向こうから射し込む朝日に気づいた。久しぶりの暖かい布団に僕たち2人とも爆睡していたらしい。それにしても、すばらしくいい天気だ。
すぐに荷物をまとめ外に出る。萱原のお母さんも出てきてお見送り。ラベンダーのしおりをおみやげにもらった。このラベンダーはたくさんあったのだが、もじゅがズボンのポケットに入れていたところ、途中の車の乗り降りで落ちてしまい、五郎さんの石の家で気づいた時には4本になっていた。このアホタレ!
五郎さんの石の家がある麓郷に向かう車をつかまえられそうな所まで送ってもらうことになっているが、その前にちょっと富良野見学。「北の国から」で草太兄ちゃんが事故にあったシーンの撮影場所や、北海道のへそに連れていってもらった。
北海道のへそは小学校の中にあり、運動場の横に石碑がたっている。その石碑のすぐ横にへそとは関係のない石球が置いてあるのだが、それが「北海道のへそのゴマ」と呼ばれているらしい。
とうとうお別れだ。これでもかというぐらい世話になった萱原に対して、僕たちは「バイクで兵庫か京都に来る時は連絡しろよ」が精一杯だった。「絶対来いよ!」と何度も何度も繰り返しながら、去っていく車を見送る。
寂しさを振り払うようにして手をあげる。30分ほどで東京の夫婦が止まってくれた。
麓郷の入り口まで行く。「ようこそ北の国へ」と書かれた看板を見つけて記念撮影。2人しかいないので、交互に1人づつ写る。何となく胸がどきどきしてくる。
歩き出してすぐヒッチ成功。この親切そうなおじさんも五郎さんの家を見に行くというので一緒にまわらせてもらう。
五郎さんの石の家には観光客がうじゃうじゃいる。とても純や蛍どころの騒ぎではない。順路に従って山道を数分歩くと、木で組まれた台があって、その向こう正面に、ドラマで見た石の家がでんとある。これ以上近づくことは出来ず、次から次から人が来るので落ち着いて見ている暇もない。
実は昨日萱原から聞いた話では、この石の家は本物ではないらしい。あんまり人が来て撮影の邪魔になるんで観光用に建てた物らしいのだ。本物はこの近くのある人の家の敷地内にあるらしい。僕たちは出来れば本物の場所を確かめたかったが、信じ切って眺めているおじさんには何も言えなかった。
五郎さんの丸太小屋についてはさらにひどい。「麓郷の森」という名前が付き「北の国からの世界」を売り文句にしたテーマパークと化している。同じような丸太小屋がいくつも並んでいて、そのいたる所に人、ヒト、ひと。「北の国からグッズ」が飛ぶように売れていて、まさに夢の大安売りだ。こうやって人が集まる所にはウソが多くなる。
つまらない話だが、北海道に入ってすぐに「札幌のラーメン横町ではラーメンは食うな。あんなに高くて、不味いラーメンは日本中探しても他にないぞ。」と言われた。それでも人はラーメン横町に集まる。ラーメン横町に知り合いがいる人の話では、毎日ダシをとっている暇もないぐらい客が来るらしい。だから、みその味しかしない「みそラーメン」が一二〇〇円もするのだ。
麓郷の森の喫茶店で高いアイスカフェオレをごちそうになり、麓郷を後にする。この麓郷には純も蛍も五郎さんもいなかった。
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