第16話 宗谷岬やで!
ちょうど滝川ICから降りる車が見つかり乗せてもらう。
この建設現場に行くおじさんは滝川にはあまり来たことがないらしく、富良野に向かう国道をかなり通り過ぎた所で降ろされた。僕たちはコンビニで道を確かめて、歩いて国道に出る。
結構距離のある道を、さっきのコンビニで見つけた「カツゲン」を2人で交互に口に運びながら歩く。この「カツゲン」は北海道限定の乳性飲料で、「マミー」をあっさりさせたような味で結構うまい。今朝札幌でコーラを醜くしたような「ガラナ」を見つけてから、僕たちは新たな限定ものを求めてコンビニを探していたのだ。探せばもっといろいろ見つかるはずだ。贅沢は出来ないがジュースやおかしぐらいなら話のネタになる。
やっとのことで国道237号線に出る。となりを雨で濁った空知川が流れている。僕たちは土手に横になり少し休むことにした。今にも雨が降りだしそうなので、30分ほどで行動開始。国道沿いに歩きながら車を探す。
100mほどで赤の軽が止まった。中を覗くとイケてない高校生かと思わせる2人組だ。この2人はこう見えてもOLだというがどうも頼りない。1日中お茶汲みをしながら上司のグチでもこぼしているのだろう。
男と女の心躍るような色鮮やかな妖しくもいけない香り、というようなものは微塵も感じさせずに車は坂道を下っていく。あげくに雨まで降ってきた。なんてこった。
富良野の手前の赤平で降ろしてもらう。小降りの中を傘をさしてヒッチ。すぐに次の車をつかまえて出発。20代後半といった感じのお兄さんだ。
雨足が強くなってくる。北海道到着が夜の暗闇の中で、富良野到着が雨の中とはなんともついてない。そんなことを考えながら、眼前に広がる景色をにらむ。バチバチとはじける雨粒の向こうに、富良野の町並みがぼんやりと浮かんでいる。
今日は何処で寝るのかというお兄さんからの質問に、僕たちもぼんやりと考える。橋の下ででも寝るしかあるまい。
お兄さんは、富良野に親戚がいるからと言って、「出合めがね」という大きな看板の出ている眼鏡屋さんに僕たちを連れてきた。僕たちはまさかここに泊めてもらえるのではと胸を高鳴らせたが、世の中そんなにあまくはないらしい。お兄さんは眼鏡をかけたおっちゃんと「富良野絶好の野宿ポイント」を検討してくれているようだった。
お兄さんが車に戻ってきた。僕たちの今夜の寝場所が決まったらしい。
着いたのは少し市街から離れた公園の東屋だ。僕たちはお兄さんにお礼を言い、手を振った。お兄さんは雨の中を得意げに去っていく。
お兄さんの車が見えなくなると、僕たちは東屋を素通りして街の方へ向かう。あのお兄さんの親切はとても有り難いが、とりあえず富良野の街を歩いてみなければ話にならない。
小降りの中を傘をさして歩く。橋を渡ってすぐのスーパーマーケットに吸い込まれるように入る。食糧の買い足しと、今夜の寝床となる段ボールを調達するためだ。
入った所に公衆電話があったので、林先生に連絡をいれる。今日中に連絡がつかないと、もう明日には帰り始めなければならないのだから必死だ。
聞き覚えのある声が受話器から響く。林先生だ。
「発達教育、体育学二回の中島です。あのぉ、後期の履修の件で、、、」
電話をかけるまでは、どういう風に話そうかと思い巡らせていたのだが、いざ林先生を前に、そんなことどうでもよくなってきた。
「今、北海道にいるんですけど、帰りたくないんです。」
隣で聞いていたもじゅはびっくりしていたが、僕はいたって平気だった。この時、これが一番もっともな理由であるように思えたのだ。
林先生の答えはOK。ただし、泉くんとしっかり連絡をとることと履修のミスは自分の責任という条件付きだった。当然こちらもそれぐらいの覚悟はできている。すぐに泉くんに連絡をとり、改めて授業登録のことをお願いする。
この北海道滞在日数3日間延長は大きい。僕は受話器を置き、もじゅに「授業登録友達任せ計画」の成功を告げる。隣で聞いていたもじゅも大きくうなずき、握手を交わす。
もし成功したらと、昨日から話し合ってきたことを確認する。
中「よしっ、最北端まで行くぞ!」
も「おおう、行こか!」
中「目指すは宗谷岬や!」
あんまり嬉しいんで、親にも報告しておこうと、再び受話器をあげる。
「もしもし、今、富良野におるねんけどぉ。明日から宗谷岬目指していくねん!」
「うん、宗谷岬!日本の最北端やで、宗谷岬やで!」
もじゅも隣で同じことを言っている。
外から聞こえてくる雨の音がだんだん強くなってきた。
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