第13話 室蘭上陸

 デッキの上は風が強くてかなり寒い。離れていく本州を眺めつつ北海道についてからの話でもしようと思っていたが、あまりの寒さにへこたれて中へ入る。

 二等客室。出入口2つの大きな部屋に20人ほどしかいない。みんな端の方に陣取り、壁に寄りかかって寝ているため、部屋の真ん中の空間がポカリと空いている。僕たちも靴を脱いだすぐの所の壁を確保し横になる。

 2人とも興奮して眠れないので、ロビーに行って電話タイム。心配しているはずの家族に連絡をいれる。この時、僕は今まで考えに考え抜いた計画を実行に移すことにした。

 その名も「授業登録友達任せ計画」。これは、17日の僕の大学の後期授業登録を友達に頼むというものだ。今の予定では、この授業登録のために16日の夜までに帰らなければならないが、この計画が成功すれば、20日のもじゅのバイトに間に合えばよくなるので、19日の夜まで旅を続けられる。つまり北海道に居られる日数が3日も増えるという夢のような計画なのだ。

 しかしこの計画は、僕にとっては自分の成績の受け取りから、時間割の決定、授業登録まで全てを1人の友達に任せるということであり、その友達にとってもめんどくさい授業登録を人の分まで行わなければならないわけであるから、その友達との絶対なる信頼関係が必要となってくる。もしその授業登録に手違いがあれば、最悪の場合、後期大学に行けないということも考えられるのだ。

 僕は揺れるフェリーのテレフォンコーナーで、押し慣れた泉くんの番号を押す。もじゅは緊張した面持ちで僕の後ろに立っている。授業登録をお願いし、時間割決定の全権を彼に委ねる。もはや僕の後期の大学生活は彼が握っていると言っても過言ではない。

 次は林先生だ。この林先生の承諾が得られれば僕たちの「授業登録友達任せ計画」は成功するのだ。何度目かの呼び出し音を遮って、女の人の声が耳もとで帰ってきた。林先生は留守であるらしい。早く連絡をとらないと、今のままでは明後日には帰り始めなければならないため、手遅れになってしまう。


 21:30室蘭着。窓からのぞくと北海道の明かりが星のように咲いている。アナウンスに従って下船。外は真っ暗でさすがに肌寒いがゆっくりしている暇はない。このフェリーから降りてくる車をつかまえるべく、僕たちは出口へと急いだ。

 やっと北海道に着いたのだという気持ちを確かめるように地面を踏みしめてみるが、フェリー乗り場の冷めたアスファルトの感触だけが広がる。そこに見渡す限りに広がる大草原有する北海道は微塵も感じられない。

 僕たちはゴルフの打ちっ放しを背中にフェリーから出てくる車に手をあげる。始めにトラックなど大型車が出ていき、続いて乗用車が通り過ぎる。1台も止まらない。

 今日中に高速に乗ってしまいたい。今晩はPAで休み、明日の朝そのまま富良野を目指すのだ。富良野には高速で滝川まで行き、そこから芦別国道を南東に向かう。

外に出てつかまえようかとも考えたが、次のフェリーが来るまで待とうということになりそのままがんばる。

 30分ほど待って、打ちっ放しの方から出てきた車が止まった。僕たちは荷物を担いで駆け寄る。北海道1台目は室蘭市役所に勤める夫婦だ。

 一番近いICまではすぐに着いたが、そこのICが小さくて、ここでは車が通らないからともう1つ向こうのICまで行ってくれることになった。この夫婦はこれから用事があったのだが、わざわざ用事を遅らせて送ってくれた。しかもこのおっちゃんは道を選んで、僕たちに室蘭市のことを説明してくれる。世界一長い吊り橋「明石海峡大橋」を真似て、今年できたばかりだという白鳥大橋や商店街などを走り抜けながら、市長さんの運転手をしていたという知識を披露してくれた。辺りが暗いせいで雰囲気は出ないもののこの室蘭観光はかなり楽しかった。

 なるほど、さっきのICよりは車がある。明かりの下で途切れ途切れに来る車に手をあげている所に、きつねまで出てきて応援してくれる。

 15分ほどで強そうなおじさんときれいな女性が乗る車を止めて乗り込んだ。この強そうなおじさんは10数台のトラックを持つ運送会社の社長さんで隣の女性はなぜか看護婦さんだった。苫小牧東のICまでの少しの間だけであったが、このおじさんは僕たちに名言を残してくれた。

「遠慮と貧乏はするだけ損!」

「思いやりを持って図々しく生きろ!」

いいではないか。人の車に便乗して北海道までやって来た僕たちにはピッタリだ。

 これからのテーマとも言えるこの名言をメモして、次の車で寝る所を探そうかと言っているところに車が止まった。お通夜帰りのおっちゃんだ。途中のPAまでと言うとすんなりOK、すぐに乗り込む。今日はそのPAで寝ることにしよう。

 ここまでの道程や北海道の話をしながらどんどん走る。このおっちゃんは札幌の人で富良野のことはあまり知らなかったが、札幌のことをいろいろ話してくれた。札幌の手前の輪厚PAで車は止まり、きつねうどんをおごってもらった。

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