第12話 敗北

 もう12時前。道が開けた所を見つけてヒッチ再会。車数台が行き過ぎ、場所をかえようかと言っているところに車が止まった。この黒い車に乗っているのは感じのいいカップル。夜のドライブ中に僕たちを見つけて、戻ってきてくれたのだ。特に当てはないから適当なところまで乗せてくれると言う。僕たちは出発してからのこと、今日あったこと、北海道を目指していることなどを話しつつ進む。

 どこで降ろしてもらおうかと外の様子をうかがっているが、いっこうにいい場所がない。いい場所も何も建物が見あたらず、左の暗闇にさらに濃い黒で日本海がいつまでも広がっているだけなのだ。

 1時間ほどして車が町中を走り出した。かなりの距離を来ている。この人たちに悪くて早く降りたいとは思うが、そこらの道ばたでは次がつかまらないのは目に見えているため、「ここでいいです」が言えない。ずるずると車に揺られる。

 トラックが多くいる道の駅で降ろしてもらうまでかなり走った。さらに隣のコンビニでパンとジュースをごちそうになり、お別れを言う。僕たちが頭を下げて見送ろうとすると、一度閉まった助手席のドアが開き、彼女がお守りにとピンクパンサーのキーホルダーを1個づつくれた。

 このピンクパンサーは、この旅中、片時も僕たちから離れることなく北海道に渡り、辛い時には一緒に手をあげ、雨に濡れ、喜びを共有した。最高のお守りだ。

 僕たちは少し休憩してから出口に移動して様子を探る。降ろしてもらった時はいい場所だと思ったが、よく見てみると周りのトラックはみんなカーテンが閉まっている。

中「どれも寝てるやんけ!大丈夫か!」

も「まあ、いけるやろ。こんなにおるし。」

ダメだった。1時間ほどの間に2台のトラックが出たがそれ以外は全く動く気配はない。海から吹く風に震えながら、祈るような気持ちで待つがトラックは静かに寝息を立てている。僕たちは着れるものを全部着込んでうとうとする。3時間そのまま。5時過ぎのトラックに僕はトラックの右側に飛び出してアピールする。

 やっとの事でOKが出て、いそいで乗り込む。僕が寝台、もじゅが助手席に座り出発。車の中、久しぶりの人との対話がやけにあたたかい。

 明るくなり始めた辺り一面に霧が薄く広がり、その向こうにうっすらと山が連なる。そんな山に平行に力強く伸びる一本道。なんときれいなんだろう。そんな時が止まったような静かな空間を切り裂いて車は北を目指す。

 昨日から走り続けてきた新潟をぬけ、山形を一気に通り越して秋田に入る。降ろしてもらった道の駅で地図を見て作戦会議。時間はもう10時を過ぎている。

 青服のおっちゃんをつかまえて次の道の駅まで移動。かなり小さくて車はあまり止まっていない。旭川ナンバーを見つけて聞いてみるが、今から関西に行くと言うことだった。場所をかえた方が良さそうだ。

 すぐに移動したいが、眠たくて仕方ない。少し休むことにして横になっていると2人とも寝入ってしまった。 

 僕たちが目を覚ましたのは2時前だった。急いで出発。手をあげながら歩く。気持ちはかなり焦っている。かなり調子良く行かないとフェリーよりも早く北海道入りすることは難しい。しかし、そんな僕たちにとって、次につかまえた車がいけなかった。

 そのトラックのおじさんはヒッチハイカーを乗せたのが嬉しいのか、聞いていても半分ぐらいしか分からない秋田弁で、僕たちが乗り込んだ瞬間から降りるまでずっとしゃべり続けていた。これは全然かまわない、ブスッと面白くなさそうな顔で運転されるよりましだ。僕たちも一生懸命耳を傾けながら相づちをうっていた。しかし、問題は起こった。

 僕たちを乗せた車が急に7号線からはずれて旧国道を走り始めたのだ。山道をどんどん上っていく。どうやら良い天気によけいに気を良くしたおじさんは、7号線よりも景色の良い旧国道をドライブがてら走ってくれているようなのだ。本来ならおじさんの好意に感謝の念でいっぱいになるところだが、今はちょっと事情が違う。急いでいる僕たちは顔を見合わせて早く着くことだけを願っていた。

 1時間ちょっとの距離を2時間かけて大館に到着。おじさんは最後まで上機嫌で町のど真ん中に僕たちを降ろして風のように走り去った。

 僕たちは歩く。ひたすら歩く。郵便屋さんに道をたずね、橋を渡り、国道沿いを歩く。

 やっとのことで、1つ年上の青年に乗せてもらい青森フェリー乗り場を目指す。着いたのが4時過ぎだ。僕たちは急いで中に入って時刻表を見る。青森から1番近い函館まで行くのに最も早いので18:00着だ。負けた!40分負けた。全身から力が抜ける。

 僕たちは荷物を降ろし、イスに腰掛ける。

 新潟で最初から7号線を通っていれば。今日昼寝をしなければ。秋田のおじさんがもっと急いでくれれば。悔やまれるが仕方がない。どうあがいても18:00より早く北海道に渡る手だてはないのだ。自家用ヘリコプターか、ドラえもんでもいなければ無理だ。

 そのまま函館行きに乗ろうかと思ったが、函館から富良野までは結構距離がある。どうせフェリーには勝てないのだから、遅らせて室蘭行きに乗った方が北海道に入ってからが楽だということになった。それでも21:30には室蘭に着く。

 支払いを済ませて一息つく。長距離フェリーに負けたことが無性に悔しかったが、反面、今夜はもう北海道の星空の下にいるのだと思うとほっとする。僕は窓の向こうに泊まっている室蘭行きの頼もしいフェリーを見ながら、なんとか北海道滞在日数を増やすことができないかと考えていた。

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