第10話 フェリーと競争だ!

 公園でスイカと桃にかぶりつき、枝豆、お茶、おかしは分担してザックに詰め込む。少し休んで、フェリー乗り場へ。まだ、小樽行きのフェリーに乗るトラックは来ていないようだ。僕たちは中に入って作戦を練る。

 トラックの相乗りでフェリーに乗せてもらうと料金がいらないという話を聞いていたのだが、どうもおかしい。フェリー代には運転手1人分の料金は含まれているが、相乗りは別に旅客運賃がいる。それはトラックも乗用車も同じだ。どういうことだ?トラックの荷台に隠れて乗せてもらえばいいということか?しかしそれでは、もし見つかったら僕たちだけでなく乗せてくれた人にも迷惑がかかることになる。それにトラックもなかなか承知しまい。無理っぽい。

 フェリーの料金は新潟から小樽まで二等で5250円だ。もちろん片道。所持金1万円の僕たちには払えない。別に郵便局で降ろせばお金はあるのだが、なんとなく1万円にこだわりたい気もする。そうなると考えられるのは1つだけだ。陸路で行くしかない。陸路で青森まで行ってフェリーを使えば料金もたいしたことはないだろう。

中「このフェリーは何時につくん?」

も「明日の17:20に小樽」

中「それまでに北海道に入ったろうぜ!」

も「えっ!」

中「フェリーと競争するんや!」

 僕たちはフェリー乗り場を飛び出した。陸路で行ってやる!今が6時前だから、夜通し移動すれば明日中には青森まで行ける。青森からはフェリーが多く出ているようだから、うまくいけば明日の夜には北海道の星空を見られるかもしれない。

 乗り場の前の道で仕事帰りのおじさんをつかまえた。僕たちは「フェリーに勝つ!」という新たな目標がやけに嬉しくて、熱っぽくおじさんに語る。このおじさんは変なやつを乗せてしまったという顔をしていたが、僕たちは自分たちの口から出る1つ1つの言葉がとてもすばらしいもののように思え、止まらなかった。

 新潟中央ICで降ろしてもらう。新潟から青森まで国道7号線が通っているが、僕たちは7号線の交通量を知らなかったため、遠回りになるが、いったん高速で郡山まで出て、そこから北上する方が早いと考えたのだ。しかし、これが失敗だった。国道7号線の交通量はかなり多く、長距離のトラックもバンバン通っている。考えてみれば、ここから北上する道は他に無いのだから、車が通っているのは当たり前だ。

 そんなこととは知らない僕たちは、仕事帰りのおじさんをつかまえて乗り込む。この車は新津ICまで。着いてみて驚いた。このICは全然車が入ってこないのだ。待っても待っても出てくる車ばかり。1時間ほど待って入ってきたのは2台だけだった。2台とも止まってくれたが、いずれも新潟方面で郡山に向かっていく車はない。ここで待っていても無理そうだ。

 僕たちは地図を見ながら下道に降りた。人通りは全くない。真っ暗な道を北だと思われる方を向いて歩くが、これからどの道を通って、どこを目指して進めばいいのか全くわからなくなってしまっていた。とぼとぼと弱い足取りで歩く。その足取りにフェリー乗り場を飛び出した時の元気はない。

 大きな橋の上でヒッチ成功。その優しそうな青年に訳を話し、道を訪ねる。この時初めて7号線がトラックなどにも利用されているバリバリ元気な国道であることを知った。この青年はわざわざ7号線の入り口まで乗せてくれ、「がんばって!」と元気な声で笑顔を贈ってくれた。この言葉がこれほど嬉しく思えたことはない。

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