第9話 新潟の宝物
30分ほどたったか、僕たちを行きすぎた所で車がとまった。東京でダイエーに勤めているという梅田夫婦。この2人は地質学に興味があり、資料館などをまわってきた帰りだった。
僕たちが北海道に行くと言うと、「アンモナイトの化石を見つけて送ってくれ!」と訳の分からないことを言って、梅田康成と書いてある名刺を一枚づつくれた。
もじゅはこの康成氏のえらそうな態度がひどく気に入らなかったらしく、この時もらった名刺は、北海道から帰ってきた時、ポケットの中からくしゃくしゃになって発見された。
西山PAで降ろしてもらう。PAの出口で芝生に寝ころびながら車をねらう。10分ほどで新潟まで行くおじさんをヒッチ成功。北海道に行くためにフェリーに乗るのだと言うと、フェリー乗り場近くの会社に勤めているということで、乗り場まで乗せてくれた。
こうして、宿にしざわを出発して5時間弱で本日の目的地、新潟フェリー乗り場に着いた。もう3時になるが、宿を出てから何も食べていない。まずフェリーの時間を確認し、それから、昼食を作れそうな公園を探す。
僕たちが用意してきた食糧は、米とスパゲティとスープ。米には、ふりかけと味付け海苔。スパゲティには、「ゆでたてスパゲティにまぜるだけ」の「たらこ」や「辛しめんたい」をぶっかけて食べる。これなら水さえ手に入れば、コッフェルセットとバーナーだけの装備で十分作ることができる。
フェリー乗り場のすぐそばに公園を見つけ、今まで使われることのなかったザックを開く。出発前日に購入した真新しいバーナーで湯を湧かしながら、ベンチの後ろの木と木の間にロープを張り、たまっている洗濯ものを干す。僕たちの後ろに赤や黄色のTシャツ、タオル、そしてパンツまでもが風に揺れ、終日誰も来ないような公園が一気に華やいだものになる。
湧いたお湯にスパゲティを半分に折って入れ、塩をふってふたをする。後はゆであがるのを待ち、「たらこ」や「辛しめんたい」味に仕上げればいいだけ。とにかく簡単ではあるが、結構いける。2人とも満足顔で食べ終わると、今からの行動を確認する。
小樽行きのフェリーが今夜の23時50分出航であるからまだ8時間ほどもある。新潟の町を適当に見てまわり、7時ごろからフェリー乗り場でトラックをゲットして、後は船旅を楽しみつつ、まだ見ぬ北海道のためにゆっくり休もうということになった。
装備を片づけて移動。さっきとは違う道を選んでフェリー乗り場の方へ向かう。路地を抜けると大きな道路にぶつかり、乗り場とは反対の方に商店街らしいものを発見。すぐにそちらへ足が行く。屋台のようなものまで出ていて、かなり面白そうな雰囲気をかもし出している。服屋に靴屋、金物、野菜、果物、何でも揃っている。僕たちは一通りまわってみて、果物屋の前で足を止めた。
スイカが1つ500円で売っている。しかし、丸ごと1つはいらないし、これからのことを考えると500円でもおしい。僕は端の方に半分に切って置かれているスイカを見つけ、値切ることにした。目標金額は100円。
「すんません!その半分のスイカはいくらですか?」
「もってけ!」
交渉成立。スイカを半分手に入れた。
このスイカは表面が汚くて、売り物にはならないと言うのである。僕は嬉しくなり、次のターゲットを桃に決めた。箱においしそうな桃が10個ほど入って500円と書かれている前に、腐ったももがざるに山盛りになっている。えらいぶさいくに腐っているが、部分的には食えそうだ。
「こっちのざるに入ったやつはいくらですか?」
「100円」
交渉成立。100円を払い、スイカ半分と腐ったももがずっしりと入った袋を受け取る。「新潟って良いとこやん!」僕たちは2人して笑いが止まらなかった。
このうれしい荷物を片づけるために、さっきの公園に戻ることにする。また、さっきとは違う道を選びながら公園を目指していくと、商店街からすぐの所で、立ち話をしていたおばあちゃんに声をかけられた。
「あんたらどっから来たの?」
僕たちの背負っている大きな荷物に興味を持ってくれたらしい。
「兵庫県から来ました。」
「ひゃっ!兵庫県から!?」
ニカニカと笑う元気のいいおばあちゃんと背の高い強そうなおばさんの2人だ。おばあちゃんは、兵庫県という行ったことのない土地から来た若者に会えたのがものすごく嬉しいらしく。いいものがあると言いながら、僕たちを家の中へ連れていき、煮たての枝豆、お茶、コアラのマーチなどを次々と持ってきてくれた。さっきの強そうなおばさんも向かいの家からぶどうを1房持ってきてくれて、僕たちは2人とも持ちきれないほど両手に袋をぶら下げている。まだまだ出てきそうだったので、僕たちは一緒に写真を撮りましょうと言って外に出た。
写真を取り出して外に出ると、向かいのおばあちゃんと赤ちゃんを抱いた奥さんが出てきて、人数が増えている。ちょうど通りがかったおじさんにお願いして2枚撮る。帰ったら写真を送りますからと、おばあちゃんに住所を書いてもらった。
「私は小学校もろくに行ってないで、字がわからん。でも自分とこの住所は書ける。」
と言って、一生懸命に書いてくださった。関谷ヨキさん。歳を訪ねると笑って教えてくれなかったが、名前を訪ねた時に、「せきやよき、はちじゅうに」と言ってしまったおばあちゃんがとてもかわいかった。
北海道から帰って、このおばあちゃんに写真とお礼の手紙を添えて送ると、返事が来た。読みにくい字である。意味が分からない所もある。しかし、ヨキさん自身が一生懸命に書いて下さった文字が並ぶ手紙は、読んでいると涙が出そうなぐらい嬉しかった。
僕はあんまり嬉しくて、すぐにその手紙に対するお礼の手紙を書いた。するとまた返事が来た。僕ともじゅが幸福そうな顔で立ち、その間で強そうなおばさん、向かいのおばあちゃん、赤ちゃんを抱いた奥さん、そしてヨキさんが満面の笑みで写っている写真を見ながら、その手紙を開く。「また会える日を楽しみにしています。」というヨキさんの言葉に僕は涙をこらえきれなかった。この思い出は僕がこの旅で得た宝物だ。
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