第8話 本当の旅の始まり

 8時前に起きて、みんなで朝食。果林ちゃんを幼稚園のバスまで送る。中学校の梢子ちゃんも登校。敬一さんはもう出かけていて居ない。後は僕たちが出発するだけだ。「9時には出ます。」と真澄さんに言っていたのが、だらだらしているうちに10時になってしまい、あわてて出発する。フェリーは今日の夜中に出るため、新潟までの移動なら十分すぎるぐらい時間はある。

 ゴンドラを左手に見ながら歩く。冬の間はこの山一面がゲレンデになる。

 今日からは夜泊まる宿もなく、頼る人もなく、初めての道を行くことになる。ここからの未知の世界で頼りになるのは、これまで重いだけで使われることのなかった荷物と懐に忍ばせた1万円札1枚、それと僕たち2人だけ。これまでの2日間とは訳が違う。

 30分ほど歩き、林道で軽トラックを止める。きりっと引き締まった顔のおじいさんが、

「荷台でいいか?」

もちろんOK。喜んで飛び乗る。手のとどきそうなところを飛びすぎて行く木々を感じながら、ここからが本当の旅の始まりだという、言いようもなくわくわくした気持ちが込み上げてくる。

 148号線まで出てもらい、北を向いて歩く。道が狭くてなかなか良い場所がない。小さな橋を越えて少し広くなっている所で、休憩もかねて手をあげる。さっき乗った軽トラの荷台が気持ちよかったので、軽トラが通ると2人の手が激しく動いてアピールする。

 場所をかえようと歩き出すと、20mほど前にさっき通りすぎて行ったトラックが止まっている。一瞬僕たちは、止まってくれたと思って顔を見合わせたが、少し前からいるみたいだったので、何か用事があるのだろうと通り過ぎようとした。するとドアが開き、おやじが顔を出した。

「富山の方向いて行くけど、乗ってくか?」

やっぱり僕たちのために止まってくれたのだ。ということは、僕たちが荷物をだるそうに担ぎ、とろとろとここまで歩いて来るまで、このおやじは黙って待ってくれていたのか?やっぱり長野はいい人ばかりだ。昨日遊んだ姫川を越え、糸魚川のICまで、1時間ほど乗せてもらう。

 僕たちは、「これより先、歩行者通行禁止」とかかれている標識の横を通って、料金所の前まで行き、木陰に入って手をあげた。車は結構通るのだが、なかなか止まってくれない。しかし、まだ昼前だ、あせることはない。退屈した僕は、この木陰の芝生の上に寝ころんでみた。これがまた気持ちいいんだ。空は青々と晴れ渡り、真っ白い雲をいくつか浮かべている。今日もいい天気だ。きっといいことがあるに違いない。

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