第7話 2日目終了

 道にもどる。砂利を積んだトラックが何度も行き来する横で、歩きながら手をあげる。車は通っているのに全く止まる気配がない。危うく新潟が嫌いになりそうになっていた時、やっと1台止まった。すぐそこの作業所までということだったが、かなりありがたい。歩くと数時間の距離を車は数分で進む。

 作業所の前の道は工事中で1本になっており、とても車を止めることができない。僕たちは暗くて、狭くて、排気ガスが充満するトンネルを抜け、少し広い場所へ出た。そこで再び待つ。前も後ろも一本道がゆらゆらと続いているだけで車を止められそうな所はなく、動こうにも動けない。

中島 「やっぱ新潟は最悪やなぁ。」

もじゅ「ああ、最悪や!もう来ん!」

2人はやる気を無くし、杭の上にのせた空き缶に向かって、石当てゲームを始めた。ルールは簡単、先に当てた者勝ち。

「あぁ、おしい!」

「クソッ!」

「新潟のアホ!!」

ボゴッ、

「当たった!」

「くらえ!」

「いてぇ!どこ狙っとんねん!」

僕の圧勝。

 2人で夢中になっていると、背後でクラクションが鳴った。

「君たち、さっきヒッチハイクしてなかった?」

そうだ、僕たちはヒッチハイクをしていたのだ。この大きいワゴンに乗った2人は、さっき反対車線から僕たちを見ていて、用事を済ませて今帰るところだった。運良く拾われて、白馬の手前まで行けることになった。

 話を聞いて驚いた。運転している男性は京都教育大学の先輩だったのだ。0BS(OUTWARD・BOUND・SCHOOL)といって、登山や、スキー、カヌー、沢登りなどの冒険教育プログラムを企画して、野外教育の世界ではブイブイ言わせているとこのスタッフだという。同じく京教大出身でOBSを出て活動している人を知ってると言うと、

「あいつの後輩で、OBSに寄らんかったら怒られるぞ!」

と半ば無理矢理OBSの長野校に連れて行かれた。OBSのスタッフで栂池の人がいるから、その人がまだいれば乗せてもらえる。

 OBS長野校は廃校になった小学校を使っており、いい感じである。僕も興味を持っている分野であるから、校内を見せてもらった。その後、事務局でスタッフのみんなに

「変なヒッチハイカーを拾ってきた」

と紹介され、栂池の人に乗せてもらえることになった。その人は、真っ白いTシャツからニョキッニョキッと真っ黒い手と顔が出ているという感じの人で、顔は織田裕二に似ている。彼が用意をしている間、僕たちは出されたイスにちょこんと腰掛け、出されたおかしを食べながら、OBSの話を聞いていた。もじゅは遠慮してか、あまり手をつけないので、僕ばかり食って、ゴミだけがもじゅの前に山になっていた。

 真っ黒の織田裕二に乗せてもらって栂池へ。OBSの話を聞き、去年、僕がこっちでバイトしていたことを話していると、すぐに見覚えのある景色になってきた。

 宿にしざわ着。入ってコーヒーでもどうですかというと、いらないと言って笑顔で去っていった。

 玄関に入って、お客さん用の鈴を鳴らす。ダッダッダッダッ。果林ちゃんが飛び出して来て、お出迎え。

「おお、果林ちゃん!元気やったか?」

「・・・・」

無言で、花かざりをくれる。昨日幼稚園からの帰りに採ってきてくれたと言うではないか。去年の冬、なかなか名前を覚えてくれず、足蹴にされていたことを思うとえらいことだ。僕が感動して抱き上げると、やっぱり嫌がられた。

 真澄さんにあいさつし、ここまでの道のりを思い出し思い出し吐き出す。真澄さんは終始にこにこと聞いてくれる。今夜僕たちが寝る部屋を決めて布団などの用意をする。冬のことが思い出されて懐かしい。もじゅも初めての宿にしざわに満足そうだ。

 みんなが揃うとご飯。スキヤキを囲み、飲む。今日、姫川で遊んだ後の新潟の冷たい仕打ちや、これからの予定などについて話し合う。

「北海道からの帰りに、寄れたら、また寄りますんで!」

「もう、来んでええ。」

敬市さんの言葉は相変わらずきびしい。

 食事が終わると、花火がしたいという果林ちゃんを振り切って、男3人で宿のすぐ近くの栂池温泉へ。気持ちよくあったまり、気持ちよい星空の下を、気持ちよい風に吹かれながら歩く。敬市さんの、

「明日は見送ってやれんけど、気をつけて行っておいで。」

という言葉に、冷めかけた身体が心からあったまった。


 部屋で作戦会議。ここから東北をヒッチハイクで移動し北海道に渡るのに2日はかかる。今日が2日目だから、4日目で北海道に入り、帰りも3日かかるとすると、北海道にいられるのは2日しかない。フェリーとうまく合わなければ、もっと短くなるかもしれない。

「わざわざ北海道まで行って、2日しかおられんのか!」

僕たちはちょっとあせった。帰りに長野に寄るどころの話ではないじゃないか。

 それから30分。地図とにらめっこしながら、無い知恵をしぼる。この際、北海道をあきらめ、「東北巡り案」まで出たが、やはり北海道は捨てがたい。明日、新潟発のフェリーに乗れば、明後日の夕方には小樽に着く。そうすれば富良野だけを見て、室蘭あたりからフェリーで帰って来ることは可能だ。東北地方を飛び越して、北海道入りするのはかなり反則のような気がしたが、こうなったら仕方がない。再び最終目的地を北海道富良野に設定し直し、気合いを入れる。待っとけよ、北海道!

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