第6話 我が放尿!

 8時起き。食いきれないほどの量の朝食をごちそうになり、しばしゆっくりする。

 今日は、僕が去年の冬にバイトでお世話になった、栂池高原(長野県)の「宿にしざわ」にお世話になる。昨日、明石から金沢まで来たことを思えば、距離的にも全然短いし、余裕である。

 10時前に、おっちゃんおばちゃんが、用事で金沢西ICの近くまで行くというので、途中まで乗せてもらう。入り口を探すがなかなか見つからない。誰かに聞こうと、てくてく歩いていくと、近所のおばちゃん連中と話をしていた警察官が僕たちを見つけて寄ってきた。おお、ナイスタイミングだ!

「何処に行くんだ」

 ほのぼのとした感じの人で、珍しそうに僕たちを見ている。北海道まで行くというとびっくりしていた。

 ICの入り口を教えてもらい、糸魚川を目指してヒッチハイク開始。20分ほどで砺波まで帰るというおじさんをつかまえ、その後もめがねをかけたおじさんと飛騨高山美術館に行くというクラシックな感じの夫婦を順調に乗り継ぎ、1時間ちょっとで富山まで来た。

 富山ICの料金所の内側で指を立てる。2台止まってくれたが、どちらも金沢に向かう車で逆方向だった。そこに止まってくれた3台目がおばちゃん2人組だった。

 上越まで行くというこのおばちゃん2人組は凄かった。まあ、このしゃべること笑うこと、凄いよ。まだ出発して1時間という、元気もりもりの僕たちがおされっぱなし。車は僕たちの爆笑を包んで走っていく。

 このおばちゃんたちは嬉しいことも言ってくれた。

おばA「でも、こんな旅は男どうしの方がいいなぁ。」

中島 「そうですかねぇ、かわいい彼女がいれば、こんなことには、、、、」

おばA「カップルで来たらそれだけや、出会いも何もないわ。」

おばB「おばちゃんたちだって、あんたらが男前やから乗せたんやで。」

中島 「やっぱり?オレが男前やからや!」

もじゅ「いや、オレのおかげや!」

 まあ、確かに男どうしの方が気は使わなくてすむ。もし不良や熊に襲われても身代わりにできるし、相手が弱音を吐こうものなら容赦なく蹴ることもできる。それに、夜ぐっすり眠れる。

 楽しい1時間があっという間に過ぎ、おばちゃんたちはこのまま上越まで行くので、糸魚川のPAで降ろしてもらった。

 ここから148号線に沿って南下すれば白馬の手前が小谷村である。すぐに柵を乗り越え、林道へ出る。少し歩き、小さな工場で道を尋ねた。

 148号線まで歩くと30分ぐらいかかるが、この林道はなかなか車が通らない。

「よし、歩こう!」

と言って、工場を出て100mでやめた。そのうち誰か通るだろう。荷物を降ろし、きれいな風景を写真におさめながら休憩。さっきバイクが1台通ったっきり、人っ子ひとり通らない。カメラにも飽き、

「あと10分待って、来んかったら行こか」

と時間を決めたが、やっぱり来ない。2人が重たい腰を上げ、荷物に手をやったその時、

「来た!」

もじゅの声に、振り向くと工場のまだ向こうから、1台来るではないか。止まってくれ!祈るような気持ちで手を上げる。

 通りかかったのは、病院に向かうおっちゃんで、148号線で降ろしてくれた。

 すぐ横を姫川が流れている。

 今1時半で、このまま行くと結構早く着いてしまう。それではと、僕たちは川に入って遊んでいくことにした。148号線を無視して、土手を一気に駆け登る。そこには、向こう岸が見えないくらいの川幅に、溢れんばかりの水をたたえた姫川が、、、あれ?

「ちっちゃいなぁ!」

どかーんと広いのは河原だけで、川はその真ん中を細く小さく、恥ずかしそうに流れている。川下の方を見ると、オレンジ色のブルドーザーが数台、川に入り込んでいる。きっとこの川も、至る所で行われる工事のために小さく細くなってきたに違いない。僕たちは多少がっかりしたが、気を取り直して、ごつごつした岩や枯れた木々が転がる河原を歩いた。川の水は冷たくて気持ちいいが、石をどけてもカニや魚の影ひとつ見えない。1時間ほど流れとたわむれ、岸で火を焚く。僕は川の真ん中に膝まで浸かり、川下のブルドーザー目がけてしょんべんをした。

「喰らえ、我が放尿!」

これは、僕のささやかな反抗だった。

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