第5話 日本海に夕日は沈む
腹一杯食って満足した僕たちは、少し休憩して1時前からスーパーの駐車場の出口でヒッチハイクを再会した。ここから敦賀までは97km。ヒッチハイクで2時間の距離だ。そこから北陸自動車道で金沢西まで50kmぐらいだから1時間として、金沢西ICを出てから父の実家を探さなければならないとはいえ6時過ぎには着くはずだ。
少し待って、犬を2匹乗せたおっちゃんおばちゃんをゲットした。白のワゴンで、少し頑固そうなおっちゃんが運転し、後ろに優しそうなおばちゃんと犬2匹が乗っている。もじゅは家でも犬を飼っている犬好きなので、僕も頑固おやじよりは犬の方が良かったが、後ろを譲り助手席に座った。
この2人は、田中さんといって舞鶴で酒屋を営んでいるという。今から美浜町にある畑に行くのだそうだ。天気の良い日はいつもこのぐらいの時間に、2人と2匹で出かけるという。いいなぁ。
僕が京都の教育大学だというと、自分の娘が今、京都の小学校で教師をしていると教えてくれた。その娘さんも仕事が大変だとこぼすらしく、2人で現代の教育について話し合った。僕たちが前で難しい話をしている時に、もじゅは後ろで優しいおばちゃんと犬の「かんなちゃん」「ゴン」と楽しそうに遊んでいた。
畑の少し手前の、車が止まれそうな所で降ろしてもらい、
「今度舞鶴に行ったら、絶対田中酒店に行きますんで!」
と調子の良いことを言って別れた。
そこでも、たいして待つことなく車は見つかり、老紳士といった感じのおじさんが敦賀ICまで送ってくれた。
手をあげている僕たちの前に渋いジープが止まった。運転しているのはバンダナをしている兄ちゃんだ。かなりかっこよかったが、逆方向だったため乗れなかった。
あのジープに乗って家に帰ったらよかったなぁなどと冗談を言っている時に止まったのが、もの静かそうなおじさんの乗った白いワゴン。仕事の帰りで富山まで帰るという。金沢に一番近いPAか、バス停で降ろしてもらうことになり、出発。
左手に日本海を見ながら進む。僕たちが感激しているのを見て、
「いつも見てると何とも思わんなぁ。」
とおじさんは不思議そうな顔をしていた。
「でも、まあ、でっかい夕日が沈んでいくのはきれいやなぁ。」
「えっ!?」
目から鱗とは、まさにこのようなことを言うのだろう。
当然のことであるが、日本海には夕日が沈むのである。太平洋、瀬戸内海には、朝日は昇っても、絶対に夕日は沈まない。小学校の修学旅行で伊勢に行き、日の出を見ようと早起きしたら、曇っていて見えなかったが、間違いなく太陽は太平洋側から昇ってくるのだ。
おじさんは、僕たちの反応に少し得意になって、海の方に目を細めながら続けた。
「真っ赤でなぁ。手がとどきそうなぐらい近くに見える時もあるぞ。」
ここまで言われたら、是非その真っ赤な夕日にお目にかかりたいではないか。僕は、少し赤くなって日本海に浮いている太陽を見ながら思った。しかし、その思いを打ち砕くかのように、おじさんの声が飛んできた。
「まだ少し早いなぁ。もうちょっと遅かったらなぁ。」
「・・・・」
残念だ!めっちゃ残念!前を見ても車は数台、どんなに安全運転しても陽が沈むまではかからない。もう10分もすれば金沢だ。その時、車が大きく左に曲がってPAに入る。
徳光PA。ここは反対車線のPAとも地下道でつながっていて、プールなどの施設も使えるらしく、浜辺に歩いて出られる。おじさんが気をきかせて休憩をとってくれたのだ。
「せっかく来たんだから、日本海をじっくり見ておいで。」
僕たちは、カメラだけ持って飛び出した。とりあえず、日本海に向かってダッシュ。子どもみたいに全力疾走する。少し肌寒いが、それもまた心地いい。地元の子どもたちがテトラポットにしがみついて遊んでいるのがシルエットになっている。この風景を写真におさめたかったが、フラッシュを持ってこなかった僕のカメラは、暗闇ではただ重いだけの邪魔物であることが判明した。
僕たちが急いで車に帰ると、おじさんはまだ戻っていなかった。僕たち二人はベンチに座り、黙ったまま海を見ていた。さっきよりも朱色を増した夕日が堂々とそこにいる。
帰ってきたおじさんは隣のベンチに腰掛け、立ちかけた僕たちに言った。
「もう15分ぐらいかなぁ。見て行こうか。」
夕日が沈むのを見せてくれるのいうのだ。おじさんの至れり尽くせりの親切に「ありがとう」としか言えない自分が悔しかった。
それから30分、男3人並んで座り、夕日を眺めた。夕日の紅が濃くなるにつれて、辺りの暗さが増していく。目で見て分かる早さでどんどん沈んでいく。雲があるのか、水平線のやや上でかけ始め、点になり、消えた。
いつもはもっと大きいのになぁと残念そうなおじさんに、何度も何度もお礼を言って、再び車に乗り込む。すぐに金沢西ICに着いた。ところが、ここに来てまたもやおじさんが言い出した。
「ついでや。家の近くまで送ったる。」
「えっ!?いや、そんなの悪いです。」
などと言っている間に、料金所まで来てしまった。ここから道が分からないと言うと、料金所で泉町までの道を聞いて、結局、家のすぐ近くまで送ってくださった。
こうして、7時前にやっと金沢市泉町一丁目にある我が父の実家、酒井家に無事たどり着いた。約11時間かかっての到着だ。やったぞー!
酒井家では、おばあちゃん、おっちゃんおばちゃん、誠一兄ちゃん夫婦とその第一子、3才の直人君が僕たちを迎えてくれた。まず風呂に入って、それからビール。1杯目がやけにうまい。料理も言うこと無しで、腹いっぱい食えるだけ食った。もう最高!
ごちそうの歓迎がすむと直人君だ。さっきから僕たちが食べ終わるのを今か今かと待っていたのだ。直人君が投げるボールをとって「ごろ~ん」と言いながら転んでやると、キャッキャ言って喜ぶ。
ごろ~ん
キャッキャッ
ごろ~ん
キャッキャッ
何度も何度もやるが、何回やっても喜ぶ。珍しいお客さんが来てとにかく嬉しいらしい。いろんな大きさのボールや人形が次々におもちゃ箱から飛び出し、遊べるだけ遊んだ。
その後は、部屋でもじゅと短い作戦会議を開き、早めに布団に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます