第4話 あったかいおにぎり
止まってくれたのは、僕たちとかわらないぐらいの青年。釣りに行った帰りらしく釣り道具を積んでいる。今回初めての年齢が近い相手であるためか、友達気分で話が弾んだ。
釣りの話から始まり、学生時代の部活や趣味といった話で盛り上がる。
この青年は釣りの他に車が好きで、よく再山(ふたたびさん)のカーブを攻めるのだそうだ。今度、車を買い換えるということで、もじゅと二人で盛り上がっていたが、僕は車のことは分からないので黙って聞いていた。
その青年の後は、春日の着物店に勤めるおばさんに春日ICの入り口付近まで送ってもらい。その料金所の前で「福知山までしか行かないよ」という若いトラック兄ちゃんをヒッチ成功。ここから舞鶴までは、舞鶴自動車道を走る。
今回初めてのトラック。僕が寝台に乗り、助手席にもじゅが座る。ビートルズ好きの兄ちゃんで、車の中はビートルズが流れている。車が動き出してすぐ、兄ちゃんが
「この曲が好きなんや!」
といいながら、ボリュームを上げると、聞き慣れたイントロが、車内に流れ始めた。
「OB・RA・DI,OB・RA・DAや!」
僕たちは、声をあげた。今朝、まだイナゴを歩いている時、僕はこの「OB・RA・DI,OB・RA・DA」を歌い、それに合わせて得意のパチカを鳴らしながら歩いていたのだ。
僕たちが急に2人そろって声をあげたので、兄ちゃんは少しびっくりしていたが、大好きな曲が始まったので嬉しそうに笑っている。僕はすぐにポケットからパチカを取り出し歌に合わせた。せっかく好きな曲を聞いている時に、急に僕の歌とパチカが始まって申し訳ないが、始まってしまったものは仕方がない。兄ちゃんは、
「なんやねん?それ!」
と言いながら、チラッチラッとパチカを見ているが、やっぱり嬉しそうに笑ってる。
大音量のビートルズと華麗な歌声とパチカのリズムが見事に調和したトラックは、言いようもなく楽しい雰囲気に包まれていた。
福知山からは、仕事に行く途中のおじさんに乗せてもらう。舞鶴自動車道の終点、舞鶴東まで行き、ICを出たところで、反対方向へ去るおじさんを見送った。日本海はもうすぐそこだ。かすかに潮の香りがするような気がしてくる。
ここから敦賀まで何kmぐらいあるのか全くわからない。とりあえず誰かに聞こうと思いながら歩き出すと、対向車が1台、赤信号でちょうど僕たちの横に止まった。その赤い車の中にはちょっと上品そうなおばちゃんが乗っている。道を聞こうか聞くまいかと見ると、向こうもこっちを見ている。
「どうしたの?どこかに行くの?」
とそのおばちゃんの方から声をかけてくれた。
「敦賀まで行きたいんですけど、、、」
そこまで言った時、信号が青に変わった。おばちゃんは、
「ちょっと待ってね」
と言って車を出し、Uターンして戻ってきた。
「歩いていくの?まだ150キロぐらいあるよ。」
「150キロ!?」
「途中まででよかったら行ってあげるよ。」
ということで、敦賀までの距離をかせげることになった。
この上品そうなおばちゃんは大飯町で陶器教室に通っていて、今帰るところだと言っていたが、これで大飯町に逆戻りだ。
もう少し交通量のある所まで行ってくれるというが、行けども行けども何もない。もう三十分以上走っている。僕たちは悪いなぁとは思いつつも、こんなところで降ろされても困ってしまうので、とりあえず話続けた。僕たちがここまで来た話や、これから北海道まで行くのだと話していると、急に僕たちの左側が開けた。
「あっ!日本海や!」
そこには、でっかい日本海が静かに横たわっていた。と書きたいところだが、そうはうまくいかない。僕たちが声をあげた次の瞬間には、山の向こうに隠れている。山と山との間からちょろっと顔を出しただけだった。それでも僕たちは興奮し、わざわざ日本海を見るためにこの道を通って来たのだと話すと、上品なおばちゃんは、
「海なら、この先ずっと見られるわ。」
と言って、笑っていた。
車に乗ってから一時間ぐらいたって、ようやく大飯町の町中を走り、
「ここからなら車も結構通ってるから、誰か乗せてくれるでしょう。」
と言って、おばちゃんは大きなスーパーマーケットの前で車を止めた。僕たちがわざわざ送ってくださったお礼を言い、ドアを閉めようとすると、
「お昼は食べたの?」
と言って、パンとお寿司をくれた。今まで気が付かなかったが、もう1時前になっている。これはたぶんおばちゃんが自分のお昼にと買っていたものに違いない。僕たちはなんとお礼を言っていいか分からず、今来た道を帰っていく車を見送りながら、何度も何度も深くおじぎをしていた。
僕たちはスーパーに駆け込み、お茶を買って誰もいない休憩所で昼食にした。今もらったパンと寿司の他に、今朝、杉本家を出る時に、もじゅのお母さんが持たせてくれたおにぎりもあったので、贅沢な昼飯になった。このご飯の一口一口のおいしさに、さっきのおばちゃんをはじめ、ここまで乗せてくださった方々の親切を噛み締めながら、腹一杯食べる。もじゅのお母さんが作ってくれたおにぎりは、まだほのかにあったかかった。
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