第3話 絶好調
とりあえず今は、日本海を目指して手をあげる。1台目の車を降りた所から100mほど先の二股に分かれている所に立ってヒッチハイクを再会。10分もたたないうちに地元のおばちゃんが運転する車が止まってくれた。出発してからの1時間半が嘘のようである。
そのおばちゃんにガソリンスタンドの前で降ろしてもらい、カメラを取り出して2人でそれぞれがヒッチハイクをしているところを撮り合ったり、きれいな景色をバックにポーズをとって遊んでいると、僕たちがここで降ろされた時から止まっていたワゴンから、こわそうなおっちゃんが降りてきた。
「うわ、こっち来るでおい!」
僕たちはかなりびびったが、知らないふりをしてシャッターを押していた。
「おい!おまえら朝、玉津の方で手ェあげとったやつらちゃうんかい!」
こわそうなおっちゃんの、こわそうな声が背中から飛んできた。辺りには、僕たち以外見あたらない。どうやら僕たちに言っているようだ。
「えっ、あ、はい。あの、そうですけど。」
僕たちは、きをつけの姿勢になり、顔は地面に向けたままで答えた。
「西脇までしか行かんけど、乗れ!」
おっちゃんは言いすてると、僕たちの行き先も聞かずに、さっさと車の方へ行ってしまった。僕たちはあわててカメラを荷物にしまうと車に乗り込んだ。
自分から声をかけてまで乗せてくれる人だから、顔はこわいが実は気さくで面白い人かもしれないと少し期待しながら乗り込んだ。しかし、僕たちが乗り込んで感謝の言葉を並べても、車が動き出しても、このこわそうなおっちゃんは話をしようとしない。僕たちの方から「今日はお仕事ですか?」とか「西脇には日本のへそがあるんですよね。」などと話をふっても、「うん」「あぁ」「そうやなぁ」としか言わない。とうとう僕たちは諦めて黙って乗っていた。
僕は、もしかしたら、この人はやばい人で、どこかの交差点で急に曲がり、山奥につれて行かれるのではないか、えらいことになってしまうのではないかという不安が湧いてきて、交差点のたびに1人でどきどきしていた。とその時、山道のあるトンネルを抜けた所で車が止まり、おっちゃんが初めてこっちを向いた。
「おまえら、2つに1つや!有り金全部置いてここで降りるか、このまま山の上までオレとドライブするか、好きな方を選べ!!!」
なんて言われたら、僕はもじゅを置いてとっとと逃げようと思っていたが、
「オレはここで左に曲がるから、ここでええか?」
知らないうちに西脇に着いていたのだ。
「あっ、はい。どうもありがとうございました。」
僕たちは車から飛び降り、出て行く車を見送った。助かったぁ。
ほっとしてから、考えてみると僕がいけなかった。あのおっちゃんの方から乗せてくれると言ってきたものだから、ヒッチハイクをしている僕たちに興味を持って声をかけてくれたのだと期待しすぎていたのだ。あのおっちゃんは仕事で西脇に行く途中に、困っている2人の若者を見つけ、ついでだからと乗せてくれただけだったに違いない。あのおっちゃんは顔に似合わずいい人だったのだ。
僕は少し反省したが、すぐに
「いや、待てよ!それにしても何かの縁で出会った若者を前にして、『何処から来た
の』とか『2人ともかっこいいねぇ』ぐらいのことが言えんでどうするんや!」
と思い直し、自分を責めるのはやめておいた。
考えてみると1台目をつかまえてからは、2台目の待ち時間は10分。そして、今の3台目などは、僕たちがカメラで遊んでいる所に、相手の方から乗らないかということで、待ち時間なしである。絶好調ではないか。
今回が生まれて初めてのヒッチハイクであるもじゅは、
「停まってくれるもんやねんなぁ」
と感激している。僕の話の中でしかヒッチハイクを知らなかったもじゅは、出発前からこのことをかなり不安に思っていたらしい。これでちょっと2人の顔に余裕が出てきた。通り過ぎる車に悪態をついて、2人で笑うぐらいに楽しい雰囲気だ。この場所なら見通しもいいし、車も結構通っているから、すぐにつかまるだろう。
「おっ、来た!」
もじゅの声に振り返る。もじゅはもう荷物を抱えて走っている。絶好調だ!
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