第2話 記念すべき1台目

 すぐそこまでしか行かないけどと言って乗せてもらった青いワゴンが、この北海道ヒッチの記念すべき1台目だ。僕たちが重たい荷物を抱えて乗り込むと車はイナゴを北へ向かって走り出した。

 運転しているのは、お笑いコンビ「よゐこ」の浜口に似た感じの男性で、助手席にはさっき声をかけてくれた、見るからに親切そうな若者が座っている。そして、僕たちの横にはおばさんが1人。そのおばさんが口を開いた。

「私は気がつかんかってんけど、福田君が1番に見つけたんよ。」

助手席の若者が福田君であるらしい。

「福田君が『あんなんいますよ』って言って初めて気付いたの。」

「いやいや、あんなんって、、、」

 話によると、この変な組み合わせの3人組はローソンに勤めているということだった。運転をしている浜口が店長で、おしゃべりなおばさんと福田君はそこの店員さん。

「今日は3人で無理矢理休みを取って、三木まで遊びに行くの。」

とおばさんはやけに楽しそうだ。三木なんて三木城以外に何も無さそうだが、この人たちはわざわざ休みを取ってまで三木に何をしに行くのだろう。しかも日帰りで。かなり気になったが、あえて聞くのはやめておいた。だって、もし、

「3人で三木城を見に行くの。」

なんて嬉しそうに言われたら、どう答えていいかわからないではないか。

 車中は、ローソンに来る面白い客の話や、仕事中の失敗談などで盛り上がったが、20分ほどで三木に着いてしまった。車を降りた僕たちはお礼を言い、車が見えなくなるまで交互に頭を下げていた。

 僕たちは道路の端に座りメモを取る。この1台目に乗れたことは、距離的には少しであったが、気分的にはかなり前進した。

 今日の朝8時に杉本宅を出発してから、1台目をつかまえた玉津まではひたすら歩いてきたのだ。1時間半の間、バス停などで手を挙げつつ、てくてく歩き続けてきた。とうとう玉津のICまできてしまい、国道がこんなにつかまらないのなら、高速に乗ってしまおうかとも考えた。第二神明、名神、北陸自動車道と高速を乗り継いでいけば、今日の目的地である石川県金沢市にある我が父の実家まで、結構早く着くだろう。

 昨夜、僕たちは杉本宅で計画を練った。イナゴを北上し、舞鶴自動車道に乗り、そこからは国道27号線を走り、敦賀から北陸自動車道を使う。このルートで行くと、かなり時間がかかる。もしかしたら今日中に金沢まで着かないかもしれない。もし着かなければ、僕たちを迎えるために用意されているはずのごちそうが食べられない。しかし、そのような危険をおかしてでも、僕たちにはこの道を行かなければならない理由があった。

 27号線を車で走るとその左手には日本海があるのだ。そう、荒れ狂う日本海が僕たちを待っているのだ。これは行っとかなあかんでしょ。昨夜の話合いで決まったのは、行きは日本海側、帰りは太平洋側。ただ、それだけ。この作戦で僕たちは北海道を目指すのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る