【4】

ファッションもメイクも、普段の麻耶と咲子ではない。

どこからどう見ても会社帰りのOLだ。とても高校生には見えない。

汐里が言葉を失ってぽかんと二人を見て立ち尽くしていると、麻耶と咲子の方も驚いた様子で汐里の方を見ている。

「ちょっと!どういうことよ!大人っぽい格好をしてきなさいって言ったじゃない!」

呆れたような顔で麻耶が叫ぶ。咲子の方はというと、やれやれ、という表情で肩をすくめて見せた。

時計を見るとまだ時間は大丈夫そうだ。幸いにしてすぐ近くにはデパートもある。

麻耶と咲子は顔を見合わせ、次の瞬間には汐里を両側からがっちり押さえ込み、そのまま力尽くでデパートの化粧品売り場まで引きずって行った。

売場狭しと華やかに並ぶ様々な種類の化粧品。

二人はテスターを使ってあっという間に汐里にメイクを施した。

あれよあれよとされるがままになっていた汐里は、何が起こっているのか理解できずにいたが、鏡に映る自分の姿を見て驚くことしか出来なかった。

「どう?咲子様の腕前は」

鏡に映る姿は、普段の子供っぽい自分ではなく、紛れもなく大人の女性。

目元は控えめなブルー、そして口元はきらきらとピンク色に輝き、それでいて汐里の良さも失われておらず、とても上品な仕上がりになっていた。

「さすが咲子だわ!未来のメイクアップアーティストだもんね!」

得意そうな表情で満足している咲子に、麻耶が嬉しそうに言った。

言葉を失っていた汐里も、これにはうんと頷くしかなかった。

咲子が普段から雑誌のメイク特集には念入りに目を通していることは知ってはいたが、見ているだけではなく、こんなにもちゃんと自分のものにしていたとは。

「すごい、すごいよ咲ちゃん!魔法みたい!」

汐里が感激していると、今度は麻耶が言った。

「感心してる時間はないのよ!早く目的の場所まで行かなきゃ!あんたのせいで余計な時間を費やしちゃったんだからね!」

 言うが早いか二人は汐里の手を掴み、勢いよくデパートを後にした。

二人に引きずられるようにしてあちこち歩き回り、どこをどう通ったのか分からないまま、汐里は足早に道を進んだ。

空はだいぶ暗くなり、もうすっかり夜である。

どこをどう通って来たのか細い道を歩いていたかと思うと、麻耶と咲子は急に立ち止まった。

「着いたわ……!」

歩き疲れた汐里は、麻耶のその言葉に顔を上げた。

目の前には店名らしきものが書かれたギラギラ輝く原色ネオンの看板がこれでもかと主張している。

派手な色とデザインのファッションを身に纏った男女が次々に入口から中に吸い込まれていく。

普段あまり見かけないような、肩やお腹、足周りの露出度の高い服装をしている人間が目立つ。

『堂々としてるのよ』

耳元でそう言われた汐里は、自分に出来る限りの演技をした。

もし、入口で年齢確認をされたらどうしよう、そんな不安が今さら彼女を襲ってきた。

緊張していると、後ろにいた男女が汐里たちの順番を抜かし、そのまま彼らと一緒になだれ込むように店の中に入ってしまった。

その勢いに巻き込まれ、気が付いた時には汐里たち三人の身体は、いつの間にかクラブの中にあった。

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