【2】
「でもっ!あたしたちまだ未成年なんだし、そんな場所に行って大丈夫なの……!?モゴモゴ……!」
勢いよく立ち上がり、力いっぱい話し始めた汐里の口を、咲子は思いっきり両手で塞いだ。
内緒の話を大声で話されてはたまらない。麻耶と咲子は力尽くで汐里を着席させた。
「(ちょっと、静かに!)」
汐里はまだバタバタしている。
「(そんなの分かってるわよ!だから、大人っぽい格好して行くんじゃないの!)」
麻耶が言った。
「(そうよ!ばっちりメイクして大人っぽいファッションで来ること!いいわね!)」
麻耶と咲子は強引に話を推し進め、有無を言わさず汐里も参加させられる羽目になってしまった。
約束の日は今週の金曜日。放課後、入念に準備をして集合ということになった。
――特に、汐里はお兄ちゃんにバレないようにすること!!――
(そんなの分かってるわよ……ふん)
汐里は少し拗ねたように唇を尖らせた。
楽しみなことが待っている時はとてもわくわくするものだ。
あっという間に約束の金曜日になった。
授業が終わり、校門の前で麻耶、咲子、そして汐里の三人はお互いに顔を見合わせて「うん」と頷き合ったあと、手を振ってそれぞれの家の方へと別れた。
この日のために汐里はしっかりと策を練っていた。
どんな洋服を着るのか、どうやって家を出てくるか。
そして、どうやって兄の目をごまかすか――。
今朝、家を出てきた時のことを思い返してみた。
『お、お兄ちゃん!』
どこか緊張気味ではあったが、不自然になってはいけない。自然に振る舞わねばなるまい。汐里は一生懸命に普通を装った。
『なんだ?』
何も知らない兄は、のほほんとワイシャツにネクタイを締めている。
あくびをしながらではあったが、手慣れたものであっという間に首元でカタチになった。
鏡の前でキメポーズをしたあと、兄は汐里の方に向き直った。
『あ、あの、私、えっとえっと……』
本人は至って自然を装ってはいるが、どう頑張ってもしどろもどろになってしまう。
嘘をつくということに慣れておらず、「素直」という名のバカ正直をこれ以上ないぐらいに発揮してしまっている自分のことを汐里は心底呪った。
『あ、そうだ。そういえば今日飲み会があるんだった』
汐里が噛みまくっている間に、兄は自分のことを話し始めた。
『えっとえっと……えっ、飲み会?』
ジャケットを身に纏った兄・
『うん、ごめん、昨日言ってなかったよな。会社の人に誘われちゃってさぁ。だから夕飯はオレの分はいいから』
スーツを完璧に着こなせたと言わんばかりの満足そうな顔を鏡に映しながら、光弘は言った。
『あ、そ、そうだったんだ!うん、分かった!』
助かった!と汐里は正直安堵した。光弘の帰りが遅いのであれば、言い訳をする必要など何もない。
『ああ。もしかしたら遅くなるかもしれないから、その時は先に寝てるんだぞ』
準備も終わり、カバンを手に持った光弘は玄関先で汐里に言った。
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