第162話 新遺跡 門番
「ここは妾の実力を見せるいい機会じゃな!!妾に任せておくのじゃ!!」
「分かりました。では俺達はここで見守って居ましょう。」
「はい。」
新遺跡は黒龍の雷の情報と相違なく、教会や神殿の柱のようなものが並んでいた。
ワイバーンの群れはその柱の上や遺跡の中で寝たり食事をしたりしている。
遺跡の左右にはキリングベアやサーベイオウル、人族と思われる骨の山ができている。
師範はワイバーンの群れに気付かれないよう、慎重に草むらを分けて距離を詰める。
おそらく新遺跡前の少し開けた場所を戦場にするためだろう。
じわじわと距離を詰めること数分
「…今じゃ!!」
掛け声と同時に師範は草むらから姿を現し、俺が知らない何らかの二刀流ソードスキルで無数の斬撃を飛ばした。
その斬撃は両手剣Lv.9”ノヴァディザスター”よりか細いものの、数量は2倍近くある。
突然現れた師範にワイバーン達は驚き、迎撃態勢を取ろうとするももはや手遅れだった。
次々斬撃で翼や鱗が爛れて肉が断たれ、絶命していく。
だが、やはり斬撃の威力が足りないようでワイバーン1体を倒すのに12撃程の斬撃を要している。
そのため後ろに重なり合っていたワイバーンまでは斬撃が届かず、7体の反撃を許した。
「グオオオオオオオオオ!!!!!!!」
敵がドラゴンであれば、この咆哮の後に強力なブレスが続いただろう。
しかしワイバーンはブレスを放つ器官を持っていない。
大きく羽ばたいて身体を浮かせ、一直線に師範を襲う。
「ぬるいのじゃ!!」
吸血鬼の羽を出して自ら接近し、すれ違いざまに一閃。
その攻撃はまるで豆腐を斬っているかのように鱗を貫通し、そして明らかに刀身より長い斬撃はワイバーンを三枚おろしにした。
『おぉ…!!やっぱり師範の攻撃の美しさはまだまだ追いつけないな…』
刀身より長く深く敵を斬り裂く攻撃は、武器の持つ特性ではなく個人の技術に分類される。
この技術に近しいものを上げるとしたら、”ノヴァディザスター”がそうだ。
剣を極限まで早く振ることで斬撃を飛ばすことができるのは知っているだろう。
これを応用し、斬撃は発生するが飛ぶことはないくらいの絶妙な速度で振った結果がこの刀身が伸びる技術の正体だ。
師範は今の攻撃で軽々と刀身を2倍以上まで伸ばしていたが、それはまさに神業と呼ぶに相応しい技術力だ。
師範に教わってから何千、何万と練習した俺ですら1.5倍程度が限界なのだ。
『刀身の2倍程度まで伸ばそうとするとどうしても斬撃が飛んでいっちゃうんだよなぁ…』
そんなことを考えているうちに次々と倒していき、10分も経たずに殲滅した。
おそらくクレア達に実力を見せつけるために派手にワイバーンを屠っていったのだろう。
新遺跡の入り口地面は赤く染まっていた。
「終わったのじゃー--!!!」
100mほど離れたこちらへ手を大きく振りながら叫んだ。
周囲に魔物が居なかったからよかったものの、もし居たら今頃血や大きな声に反応して群がっているところだろう。
『修業時代よりポンが悪化したような…いや、周囲に魔物がいないことを知っていた線も濃厚か?』
ひとまず下らないことを考えるのを辞め、師範の元へ駆け寄ってワイバーンの死体を全て”アイテムボックス”に収納した。
散らばった血は少し面倒だが、範囲攻撃のソードスキルで土を掘り返して地面に埋めた。
その際に爽やかな香りを放つ薬草や脱臭作用を持つ木の実を一緒に埋めたので、血の匂いは完全に消えた。
血も”アイテムボックス”に収納すればよかったのではと思う人もいるだろう。
収納するためには対象の場所的情報を詳しく把握する必要があるため、水道管から流れる水は楽だが地面に散らばった血は直接触る必要があったのだ。
「ふぅ…少し早いけど昼食にしようか。」
「そうですね。遺跡に入ったらいつ時間ができるか分からないですし。」
「あー…ごほん。実はソフィアが7人分のお弁当を作ってくれたんだ!!」
「おぉ!!流石ソフィア!!気が利くな!!」
「私とエレノアちゃんもいいのかしら~?」
「ああ。」
”アイテムボックス”からお弁当とテーブルを取り出し、その上に布を敷いてお弁当を開けた。
すると、そこにはたくさんのサンドイッチが入っていた。
俺を含めた全員が感心の声を上げた。
続いて”アイテムボックス”から容器に水を取り出し、手を洗って清潔にした。
さらに人数分の椅子を取り出し、昼食の準備が整った。
「いただくのじゃ!!」
「ちょっ、師範!?」
「…むっ!!美味しいのじゃ!!妾の食事係に任命しても良いのじゃ!!」
「エ、エレノア様でもそれはダメなのです!!」
「そうそう~ソフィアは私達のパーティー管理者だからね~」
「冗談じゃよ…」
それから”魔物探知”で周囲を警戒しながら楽しく昼食を取った。
皆が満足したところで全て”アイテムボックス”に戻し、遺跡に入る準備を整えた。
「…さて。進入するぞ。」
「おう。」
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