第163話 新遺跡 進入

周囲を警戒しながらじわじわと教会の柱で支えられた場所を進み、扉のない入り口を抜けた。


遺跡の中は天井に吊るされた複数の豪華なシャンデリアに照らされているため、部屋の隅まで見えるほど明るい。




『”魔物探知”も”罠探知”も反応はなしか。…少しこの空間の様子を探ってみるか。』




そこは床も壁も天井も全て真っ白な大理石で作られた荘厳な空間で、あちこちに様々な金細工が施されている。


壁には金の額縁に収まった絵画が何枚も展示されているが、どれも擦れたり破れたりしているため元々のデザインは分からない。


絵画について詳しく知らないが、きっと素晴らしい作品だったのだろう。




「うーむ…」




「師範、どうかしましたか?」




「この絵画に見覚えがあるような気がするのじゃが…消えかけていることもあって思い出せんのじゃよ。」




「えっ…!?」




遺跡は歴史書に記された偉大な人物の墓から無名の技術者が建てた建物など、様々な種類が存在する。


そんな多種多様な遺跡だが、時代背景を把握することで罠を推測できるという共通点がある。


例えば古代文明が滅びた直後の遺跡ならば落とし穴や毒矢が多いらしい。




「そこを何とか頑張ってください!!」




「ふむ…だめじゃな。」




「そうですか…まあそれなら仕方ないですね。」




時代背景が分かるのはアドバンテージだが、俺には“罠探知“のスキルがあるのでそこまで気にしなくてもいいだろう。




部屋の隅から隅まで見て回ったが、この空間の奥に道が続いているということ以外は情報は得られなかった。


金の額縁やシャンデリアは持って帰ることができるようなのだが、光源は取っておきたいので額縁だけ“アイテムボックス“に収納した。


シャンデリアは帰りに収納すればいいだろう。




「さて…次行くぞ。」




再び隊列を組み、周囲を警戒して奥の道へと進んだ。


横5m縦8mほどある半楕円状の通路で、材質は変わらず真っ白な大理石だ。


壁には等間隔で高級感のある黒い縁のランタンがかけられている。




「…全員止まってくれ。罠だ。」




「どこだ?」




「3m先の左壁、7m先の地面右側だな。」




「まさかここまでのものとは思わなかったわ…」




「自慢の弟子なのじゃ!!ほれ、進むのじゃよ!!」




ちなみに壁のはスイッチ式で弓矢が飛んでくる罠、地面のは踏み抜き式で針山に落とされる罠のようだ。


まず右に、次に左に蛇行するように進むことで罠を回避した。




「あと40mで広い空間に出るが…それまでにあと6つあるな。警戒して進むぞ。」




「おう!!」




それからある時は飛び越えて、またある時は魔物の死体で罠を誤作動させて進んだ。


広い空間まであと15mまで迫ったとき、遺跡に入って初めて“魔物探知“に反応があった。




「…全員止まってくれ。」




「ど、どうしたのです?」




「この先の広場に体長10m近くある巨大な魔物がいる。あれは…ゴーレムっぽいな。」




「種類は分かりますか?」




「…すまん。分からない。」




「ふむ…体長が違うから進化個体か特殊個体じゃな。」




ゴーレムは基本的に鉱山や坑道内で鉱石を吸収して誕生する。


鉄鉱山からはアイアンゴーレム、ミスリル鉱山からはミスリルゴーレムといった具合だ。


この遺跡の場合は大理石を吸収した特殊個体、名付けるならマーブルゴーレムといったところだろう。




前世では確か頭に書いてある文字の1つを消せば倒れるといった情報があった気がするが、この世界のゴーレムには文字が書かれていない。


その弱点の代わりと言っては何だが、魔物共通の弱点である核が体表にあるのでそれを破壊すれば倒せる。


だが、そのように倒すと魔石を換金できなくなるのでゴーレム討伐は冒険者に敬遠されている。




他の討伐方法としては、核を残すように削ることでHPを0にすることだ。


だがゴーレムは非常にHPが高いため、この方法もなかなか大変だ。


俺は金に口うるさいので間違いなくこちらの戦法を取るが。




「大理石って壊せるの~?」




「ここの大理石は強化されているみたいじゃから妾と弟子の全力で何とか壊せるといったところじゃろう。」




「じゃあどうすれば…」




「大理石は水と酸に弱い。…ですよね、師範?」




「うむ!!よく覚えておったのじゃ!!」




「水と酸ねぇ…水は今後大事になるかもしれないから取っておいた方がいいわねぇ~」




「酸っぱいやつだよな?ならオレ持ってるぞ!!」




クレアは”アイテムボックス”に手を入れると、次々黄色い楕円形の実を取り出した。


前世のレモンを彷彿とさせる色と形だ。




「おぉ…!!…って、なんで何十個も持ってるんだよ?」




「アルフレッドの食事にこっそり入れていたずらしようと取っておいたんだ!!」




「おいおい…まあ理由はともあれ助かったな!!」




試しにそのレモンらしき果物を1つ切って壁に擦り付けてみると、ジュワジュワと音を立てながら溶けて輝きが無くなり、ただの石のような見た目に変化した。


そこをサリーちゃんが少し強めに殴ってみると、パラパラと大理石の欠片が落ちていった。


何らかの手段で通常の大理石より強度を増したことにより、酸への耐性が下がったというのが師範の見解だ。




「さて…じゃあ作戦を立てるぞ。」

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