第157話 舎弟
『はぁ…クレア達より戦いがい無かったな…』
1人で冒険者パーティーと戦うのは初めてだったので、連携や手数の多さに期待していた。
だが、全くもって期待外れだった。
肩を落としつつ控室に戻り、いつもの装備に着替えてコロッセオを後にした。
大熊宿に戻ると、当初の予定通り大金が入った袋を抱えた4人が待っていた。
「おう、おかえり!!大儲けだぞ!!」
「…ああ!!黒龍の雷様様だな!!」
「ほんとだよ~!!」
「その通りですね。それに、久しぶりにアルフレッドの全力も見られましたし!」
「す、すごかったのです!!」
「ありがとう。いつもは魔道具が無いからな。…流石に相当手加減しないとすまずい。」
「ちぇー!!オレも全力のアルフレッドと戦いたかった…」
「あははは…」
そんなことを話しながら夕食を取り、眠りについた。
久しぶりに全力を出したからか、深く眠ることができた。
翌朝
『ふぅ…早朝訓練はこれくらいにしておくか…』
毎朝のルーティーンを終えて大熊宿へ向かうと、宿の入り口付近でコソコソしている5人組を見つけた。
全員がフードのついた漆黒のローブを着ており、いかにも不審者といった動きだ。
『野盗か…?いや、“盗賊探知“に反応はないな…』
“闘気操術“を行使して見てみると、驚いたことにそれらの人影は黒龍の雷の5人であった。
何やら怪しげな様子なので、俺は狙いを聞くべく気配を殺して接近した。
「…おい、何してるんだ?」
「ひぃっ!!」
「ア、アルフレッド…さん…」
「…まだ何か用か?」
ギロっと睨みつけると5人は萎縮し、お互い顔を見合わせて1度頷いた。
「お、俺達を鍛えてくれ…ください!!」
「…へっ?」
俺はてっきり仕返しに来たと思っていたので、予想外の返事に間の抜けた声が出てしまった。
「その圧倒的な強さに惚れ惚れした…しました!!」
あれほど無惨に殺されたら普通は俺に恐怖すると思うのだが…
あまりの恐怖で壊れたのか、ネジが数本外れたらしい。
「…それで?どうして宿の入り口でコソコソしてることに繋がるんだ?」
「最初は技術を盗み見るつもりだった…でした!!」
「…はぁ。とりあえず煩わしいからいつも通りの話し方をしろ。」
「わ、分かった。ありがとう。」
「それで…5人とも俺に師事したいってことであってるのか?」
「あ、ああ!!」
初めてギルドで会った時は他人を見下す冷たい視線だったが、今は憧れを抱く子供のようにキラキラした目をしている。
異常なほどの変化に気色悪さを感じて鳥肌が立ってしまった。
「…悪いがそれは無理な相談だ。うちの4人で間に合ってる。」
クレア達はただのパーティーメンバーであって、弟子というわけでは無いが…
戦闘技術を教えたり悪い戦闘の癖を指摘したりしているので似たようなものだろう。
「そこを何とか…!!」
「断る。」
「そんなぁ…」
「はぁ…師範に鍛えられた俺の強さが異常なだけでお前達は十分強い。俺に師事しなくても、驕らず真面目に訓練を重ねれば強くなれる。」
「そうですか…ならせめて兄貴と呼ばせてくれ!!」
「えっ…はぁ!?」
「師事は諦める。だから…お願いだ!!」
Aランク冒険者のプライドはどこに捨ててきたのか、5人はその場で膝をついておでこが擦り切れるほど地面に頭を擦り付けた。
それは見事な土下座だった。
『この世界にも土下座あったんだ…って、そうじゃない!!』
日が昇り、活動を始めた人々がこちらに訝しげな視線を送ってくる。
俺が大の男3人と女2人に土下座させている最低な人だと思われているのだろう。
「分かった分かった!!認めるから頭を上げてくれ!!」
「兄貴…!!俺達黒龍の雷は兄貴に従順な舎弟になることを誓います!!」
「あ、ああ…」
土下座を辞めさせるために認めたはずたのだが、感謝の念を込めて再び土下座を始めた。
「どうしたのですわ…?」
「シ、シルビアさん…」
土下座をする5人組に視線を落とし、再び俺の方を見ると冷たい視線が送られてきた。
それは宿の客ではなく、ゴミを見るような視線だった。
俺がMであれば非常に興奮していただろうが、そうではない。
友人関係に亀裂が入ったことを察し、心の底から震えてしまう。
「ち、ちが…」
「邪魔なので退いて欲しいのですわ。」
「あっ、はい。…お前等、今日はもう帰ってくれ…」
「分かりました兄貴!!」
それから水浴びをして部屋に戻ると、訝しげな表情をした4人が待っていた。
どうやらシルビアさんが見た一連の出来事を曲解したままクレア達に伝えたらしい。
「…で、どういうことなんですか?」
「違うんだ!!実は…」
汗水垂らして説得すると、最初からあまり信じていなかったようですぐに誤解だったと理解してくれた。
シルビアさんにも同様の説明をすると、すぐに誤解だったと気付いて謝罪した。
時間的にはほんの一時間弱の出来事だったが、精神的に来るものがあったようだ。
何時間も経ったようにどっと疲れが来て、身体を休めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます