第156話 公開処刑

「アルフレッド選手、あの黒龍の雷に対して堂々としていますね!!」




「我らがエレノア様の弟子になりましたからね…自信があって当然です。」




司会の解説を気にせず賭場の方をちらっと見ると、俺の勝利倍率は5.7倍まで膨れ上がっていた。


目にTPを集中して”闘気操術”を行使し、アイリスを見ると俺の勝利に金貨5枚を賭けたチケットを握っていた。




『勝ったら金貨23枚と大銀貨5枚の利益か…奴らの誇りを踏みにじりつつ、絶対に勝たないとな。』




「それでは第1試合、アルフレッド選手対…」




「ちょっと待ってくれ。」




「アルフレッド選手、どうかしましたか?」




「5人全員を同時に相手にできないか?つまらないし時間が惜しい。」




「そ、それは可能ですが…」




観客にどよめきが広がった。


ある者は面白そうだと笑みを浮かべ、またある者は賭けた金を返せと怒っている。




「黒龍の雷の皆様はよろしいでしょうか?」




「はっ、良いぜ。その鼻をへし折ってやるよ!!」




「ちょっとイケメンだからって生意気ね…」




「負けたら私達に付き合いなさい!!」




「はいはい。負けたら…な?」




「両者の合意により、アルフレッド選手vs黒龍の雷の試合を始めます!!」




「おおおおおおおおおおおお!!!!!!」




このように提案したのは、もちろん勝算があってのことだ。


というのも、ギルドで対峙したとき既に“鑑定“を行使して5人の実力は把握しているからだ。


1番強いリーダーでもLv.91、他4人はLv.85前後とLvやステータス値が俺の半分以下なのだ。




『でも油断はできないな…』




何年間もパーティーを組んでいるので、その卓越した連携力は侮れない。


冒険者は職業柄死のリスクが高い日々を送るため死傷者数が後を絶たないのだが、彼らは数年間活動して死者や重傷者を出していないという点も大きい。


ユニークスキルは所持していないようなので、経験で鍛えた危機察知能力や危機回避能力が相当高いのだろう。




『それなのにどうして俺の強さを見極められないんだよ…?』




考えても分からないので、”闘気操術”をTP消費100,000で行使して舞台に上がった。


俺の纏う闘気に気が付いたのか、リーダーの男と重装備の男が少したじろいだ気がする。




「準備が整ったようです!!それでは両者武器を構えて…試合開始!!」




「…ふんっ。俺達は先輩だから初手は後輩のお前に譲ってやるよ。」




「そうか?なら遠慮なく…!!」




強く踏みしめ、超高速で地面と平行に跳躍した。


黒龍の雷は俺の動きに気付いたものの目で追うことも動きについていくことも敵わず、防御が遅れたタンクの顔を殴り…はせずに相手の背後まで通り過ぎた。




「ぷっ…あっははははは!!!速いだけかよ!!」




「攻撃命中率皆無じゃねーか!!」




「い、いや違う…お前等気を付けろ!!」




「ど、どうしたのリーダー?まさかびびっちゃった?」




「あいつは今、わざと攻撃しなかった。お前等程度瞬殺できる…そう言いたいんだろ?」




「ああ。よく分かったな。」




「ちっ…舐めるんじゃねーよ!!」




「お、おい!!」




ローブで軽装の男がリーダーの警戒を無視し、短剣で斬りかかってきた。


リーダーの男は軽装の男を捨て駒と判断したのか、彼を除いて隊列を立て直しているようだ。




『…遅い。遅すぎる。TP100,000消費は過剰戦力だったか…?』




”闘気操術”を行使しないアイリスよりも動きが遅い。


俺の目にはもはやスローモーションのように映っていた。




「はぁ…」




溜め息をつきながら首元へ迫った短剣を右手の親指と人差し指でつまんだ。




「なっ…!!化け物…!!」




「それは失礼だろ。…これでもくらえ!!」




相手の暴言にムカついた俺は、空いている左手で軽装の男の腹を殴った。


すると、拳は革鎧どころか身体を貫通し、潰れた臓物が飛び出すとともに腹に大穴が空いた。




『…えっ?脆くね…?あっ、そういえばこのパンチでウェアウルフも殴り殺したんだっけ?』




もう少し痛めつけつつ殺すつもりだったのだが、手加減を失敗してしまった。


とはいえ魔道具の効果で死なないので、殺人の心配は不要だ。




「ひっ、ひぃぃぃ!!!」




「おぇぇぇぇぇ…」




双子女の片方は腰を抜かして失禁し、もう片方は魔道具の効果で消え始めているが散らばった臓物を見て嘔吐している。


リーダーの男と重装備の男はその場で立ち尽くし、餌を求める魚のように口をパクパクさせている。




「なっ、何ということでしょうかー--!!アルフレッド選手、得意の両手剣だけでなく体術も破壊力抜群だー---!!!」




「おおおおおおおおおおおお!!!!」




「いい刺激だー--!!!」




「もっとやれー--!!!」




コロッセオに試合を見に来る人々は血に飢えている人が多いと噂で聞いていたが、まさか本当だったとは思わなかった。


呆然としつつ、残った4人の方に視線を移した。




「…く、来るなぁぁ!!!!」




「あっち行けぇぇ!!!」




双子が恐怖で手が震わせながらも矢を放った。


狙いが定まらなさそうなものだが、流石はAランク冒険者といったところか。


2本の矢はそれぞれ俺の胸と首に飛んできた。




俺は2本の矢を横から掻っ攫うようにして掴み取り、双子に投げ返した。


その矢は弓で放った時よりも速く飛び、双子の頭を貫いて風穴が空いた。




「…っ!!」




双子が死んだことで我に返った重装備の男はタワーシールドで己の身を守ろうとし、リーダーの男はタンクの後ろに隠れている。


右足で跳躍して2人の前へ急接近し、そして左足で踏ん張ってタワーシールド目掛けて思い切り右ストレートを放った。




その1撃はゴゥゥゥ!!!という鈍い音を立てるとともに盾を粉砕し、さらに勢い余った拳は後ろにいた2人の身体をも粉砕した。




「し、試合終了ー---!!!勝者、アルフレッド選手ー---!!!」




「おおおおおおおおおおおお!!!!!!!」




「すげー----!!!!」




「強くなって帰って来やがったー---!!!!」




あまりにも弱すぎて最初の1撃で怒りが失せてしまった。


飛び交う歓声のなか、俺は金貨23枚と大銀貨5枚の利益に笑みをこぼした。

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