第74話 初稽古

「じゃあ私たちは観戦席に行っていますね。」




「ああ。俺は賭場で稼いでくる!!」




早速アイリスの5人抜きが当たり、金貨1枚と大銀貨6枚(160,000円)の利益が出た。


順調な滑りだしだ。




「オヤジさん、ユタワ校の勝利に大銀貨5枚!!」




「はいよ!!配当金から引いたから、金貨1枚と大銀貨1枚の返却な!!」




「ありがとう!」




ユタワ校…おそらくこの試合を勝ち抜き、第4回戦で戦うことになるエルフの相手だ。


というものの、対してステータス値が高いわけではない。




問題は…ユタワ校大将が持つユニークスキル“精霊付与“だ。


これは周囲にいる精霊を武器や防具に住まわせ、属性を与えるスキルだ。




『おそらくゲームのエンチャント…に近いものだろう。』




以前本で読んだことがある。


曰く、斬る時に刃から炎が出て傷口から燃やす剣。


曰く、刺さった時に冷気が出て体内から凍らせる矢。




このような武器は魔剣と呼ばれ、滅多に市場に出ないという。


過去にオークションに出た時は、金貨270枚(27,000,000円)で落札されたという。




『恐ろしく高い…あのエルフの男が羨ましいな…!!』




「それでは第3回戦2試合目を始めます!!両者武器を構えて…試合開始!!」




「おぉ、ここにおったのじゃな。」




「ん…?あ、エレノア様…!」




『小さくて一瞬視界に入らなかったなんて言えないな…』




「お主…また失礼なことを考えたじゃろ?」




「そ、そんなことないですよ。」




「なら良し。それと妾のことは師範と呼ぶのじゃ!」




「師範…師匠じゃないんですか?」




「師範の方がカッコいいじゃろが。」




『カッコよさで決めてるのか…』




「ところでどうしてこちらへ?」




「お主を呼びに来たのじゃ!第3回戦は午前中で終わるから、午後は稽古をつけてやるのじゃ!!」




「おぉ…!!ありがとうございます!!」




師匠の稽古はひたすら走らされ、剣を振らされたが…


師範の稽古は違う内容であることを祈る。




「じゃあ妾は戻るから妾の部屋を訪ねるのじゃぞ!!」




「はい。」




「試合終了ーー!!ユタワ校の勝利ーー!!」




やはりエルフ達ユタワ校が勝利し、対戦相手はユタワ校で決定した。




それから稽古に向けて“アイテムボックス“の中身の確認をしつつ、残りの試合を楽しんだ。


7試合全てで金貨1枚をBETし、2回外したがそれでも金貨2枚と大銀貨16枚(360,000円)の利益を出した。




『ふぅ…そろそろエレノア様の部屋に向かうか。』




彼女の部屋はコロッセオの最上階にあるらしい。


賭場の近くにあった階段を登り、最上階へ向かった。




『…先が見えないな。少し急ぐか。』




前世の学校で運動部が体力作りのためにやっていた階段ダッシュみたいだ。


見ている分には対して厳しくなさそうだったが、実際にやってみるとこうも足にくるとは…




数十分後




「やっと…着いた…」




日頃の訓練の成果か、息は上がらなかった。


しかし足の疲労が酷く、気を抜くと生まれたての子鹿のようになりそうだ。




「やっと来たか。待ち侘びたのじゃ。」




「すみません…師範!」




「うむ!!許すのじゃ!!」




師範と付け足しただけで、上機嫌になった。




『…ちょろいな。』




「お主…」




「な、何でしょう師範?別に失礼なことは考えていませんよ?」




「なら良いのじゃ。では早速稽古を始めるのじゃ!」




「稽古…何をするんですか?」




「まずは体力作りを…と言いたいところだかお主は既に十分みたいじゃな。」




「毎日訓練していますので!」




「それは良いことじゃな!!なら次は、TP上限を増やすのじゃ!!」




「分かりました。」




ソードスキルはスキルLvが上がれば上がるほど、消費TPも増える。


ちなみに化け物退治をしたときに行使した両手剣Lv.9“ノヴァディザスター“はTP10,000を消費する。




『今のTP上限じゃ2回しか行使できないからな…“闘気操術“の併用も考えて、全然足りないか。』




「そうじゃな…お主、これを飲むのじゃ!!」




そう言うと、師範は紫色の丸がたくさん入った瓶を差し出した。


それは毒々しい紫色で、蓋を開けると何とも表現し難い刺激臭がする。




「これは…?」




「TP上限を増やす丸薬なのじゃ!妾が試したから心配は要らんのじゃよ!!」




“鑑定“してみると、TP増幅薬(A)と表記されていた。


効果は服用時にTPを3,000増加し、30分間TP切れによる増加量が10倍になるとのことだ。




『Aランクの薬だし…かなりいい代物だな。』




「場所を変えるから付いてくるのじゃ。」




「分かりました。」




飛んで移動する師範後を追い、先程登った階段を今度は降り始めた。




「師範、一体どこへ…?」




「コロッセオの下にある訓練施設じゃ!!普段は剣闘士達が使っているのじゃ!!」




「そんなところが…」




剣闘祭の時は立ち入り禁止になっていた階段を降りると、そこは石壁に囲まれた広い空間だった。




「おぉ…!!秘密基地みたいですね。」




「じゃろ?妾の自慢の場所なのじゃ!!」




『あえて子供っぽい感想を言ってみたが…正解だったみたいだな。』




「早速その丸薬を飲むのじゃ!」




「はい。」




嫌な色と匂いだが、覚悟を決めて口に入れた。




『うっ…何だこれ…⁉︎腐った牛乳みたいな…運動部の使用済みTシャツみたいな匂いが…』




吐き気を催したが、なんとか堪えて飲み込んだ。




「うぅ…気持ち悪い…」




「じゃがTPは増えた感覚がするじゃろ?」




ステータスウィンドウを出してみると、確かにTPが3,000増加していた。




「妾は仕事に戻るからこれを出来るだけ飲むのじゃ!!なに、倉庫にいくらでもあるから遠慮しなくていいのじゃよ!!」




「は、はい…」




そういうと、入り口に瓶をもう5つ置いていった。




『滅茶苦茶に不味いが…TP上限を増やすためだ。頑張ろう…!!』




俺は改めて覚悟を決めた。

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