第73話 剣闘祭 第3回戦 vsタリア校

大儲けして帰ったその夜。


アイリスが珍しく俺の部屋を訪ねてきた。




「…アルフレッド、毎回思っていたんですがこの細かい戦力分析はどうやるんですか?」




適当な話題を振っているが、本当はそれを話しに来たわけではないことは一目瞭然だ。


手を震わせ、白狼の耳と尻尾がシュンとしている…おそらく明日への不安を紛らわしたかったのだろう。




「…企業秘密だ。」




「そこを何とか…だめですか?」




普段は真面目で無愛想なアイリスが、胸元の緩いシャツに上目遣いという色気で誘惑してきた。


俺は不覚にもギャップ萌えしてしまった。




『これは素…じゃないよな?スーかメリッサの入れ知恵か。』




「そうだな…明日の試合で5人抜きしたら少し教えてあげよう。」




「本当ですか?」




「ああ。だから頑張って勝てよ?」




「はい…!!」




不安を抑えるのもそうだが、どうやら戦力分析のコツを聞きたかったのは本心だったようだ。


俺と話して安心したのは分からないが、手の震えは止まっていた。




しかし何故か、安心したとともにそのまま俺のベッドで眠りについてしまった。




『クレアに続いて今回はアイリスか…それにしてもなんで皆俺のベッドで寝たがるんだよ…』




俺は悶々としながら、欲求を押さえつけて眠りについた。




翌朝




俺はアイリスを起こさないようにそっと部屋を出て、早朝訓練を行った。


その後軽く汗を流し、5人でコロッセオへ向かった。




「アイリス、頑張ってね〜!」




「が、頑張って…なのです!!」




「ありがとうございます。」




手の震えもシュンとした耳と尻尾も元通りになっている。


どうやら不安を拭いきり、落ち着いているようだ。




コロッセオに着き、4人は早速準備を始めた。


俺は急いで賭場へ向かい、アイリスの5人抜きに金貨1枚をBETしてきた。




『2.6倍…低いけどまあ仕方ないか。』




悠長にしている時間はないので、俺も控室へ行って準備を始めた。


即座に着替え、5人分の装備…特にアイリスの装備を重視して整えた。




「…よし、準備できたな。」




「はい。では…行きましょう!!」




アイリスを先頭に、舞台へ入場した。


装備をつけたアイリスの背中は、とても頼りになるように見えた。




「アインザス校の入場だーー!!」




「おおおおおおおお!!!!」




「今日はアイリス選手が1番手とのことです。」




「ちなみに彼の英雄、アルフレッド選手は不動の大将です!!」




『いつまで英雄ネタ引きずるんだよ…』




そんなことを思いながら、試合の準備が整った。




「それでは第3回戦1試合目を始めます!!両者武器を構えて…試合開始!!」




相手はパワータイプの片手剣と盾の使い手…防御力が高く、短剣使いとは相性が悪い。




「やぁぁぁぁ!!!」




開始と同時にアイリスが短剣を投擲した。


相手はタワーシールドを前にどっしりと構え、それを難なく防いだ




「…っ⁉︎どこに…⁉︎」




…のだが、アイリスを見失った。


敵が血眼になって探しているところをアイリスは背後から近づき、首を斬り落として仕留めた。




「試合終了ーー!!勝者、アインザス校アイリス選手ーー!!」




『今のは上手かったな…』




今の数分の間に何があったのか詳しく説明しよう。




まずアイリスが開始と同時に短剣を投擲した。


これによって相手の注意は首元へ飛んでくる短剣に誘導された。




この際、相手に2つの選択肢が与えられていた。


短剣をタワーシールドで防ぐか、敢えて受けるの2択だ。




前者を選べばタワーシールドで視界が遮られ、アイリスを見失う可能性が高い。


後者を選べば、アイリスを見失うことはないがそれなりにダメージを受ける。




…そう、アイリスは相手がどちらを選んでも自分に都合が良い選択肢を投げかけていたのだ。




『恐ろしいが…長所を生かした見事な戦い方だな。』




今回は相手が前者を選び、タワーシールドで視界が遮られた。


その時アイリスは瞬時に死角を見つけ、“瞬足“を行使して相手の懐に潜ったのだ。




『もし俺が相手の立場だったら…両手剣を右手で持って、痛み覚悟で左手の籠手で短剣を弾いてたな。』




それからもアイリスは高度な心理戦を用いて相手を翻弄し、見事無傷で5人抜きに成功した。




「試合終了ーー!!アインザス校の勝利ーー!!」




「3試合連続で無傷5人抜き…それも3人が1人ずつ…」




「やはり不死身のアランが教授として就任した影響でしょうか?恐ろしく強いですね…」




「アイリスお疲れ〜!!すごかったよ!!」




「ああ!!オレも見てて圧巻したぞ!!」




「ありがとうございます!!」




「よくやったな。」




「はい!!…では戦力分析のコツを教えてもらえますか?」




「あっ…あ、ああ。」




すっかり忘れていた。


適当にはぐらかして説明しよう。




「メリッサと同じで敵の強さを大体把握できるユニークスキルを持ってるんだ。」




「なるほど…」




「ステータス値は過去の記憶と比較するんだ。例えば『俺がSTR50で藁の人形を攻撃した時と同じくらいの威力だな…あの人はSTR50前後か。』みたいな。」




「なるほど…!!私も実践してみます!!」




以降アイリスに教えた方法が冒険者の間で広まり、“アイリス流鑑定術“として親しまれたのはまた別のお話。 

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